大事な「股関節」のこと!

2020年9月、全米オープンテニスで大坂なおみ選手が優勝したという嬉しいニュースが飛び込んできた。そのニュースを知った翌朝テレビをみていたら、元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんが出演されていて、大坂選手の偉業について、動きなどの分析を交えながら解説されていた。

その解説の途中、杉山さんは、「股関節と肩甲骨はパワーの源です」とおっしゃっていた。腕や手先の操作だけではなく、股関節と肩甲骨を上手く柔軟に使いながら、全身の良いバランスを保って動くことがテニスでも大切ということだろう。

股関節と肩甲骨! これは、太極拳を行ううえでも非常に重要なポイントとなる。

太極拳の動作をするとき、股関節と肩甲骨まわりが適度に緩んで伸びやかに動かないと、体全体の動きがぎこちなく固くなり、バランスが取りにくくなる。テニスは勿論のこと、他の異なるジャンルの様々な運動でも、この2つの体の部位は、身体操作の重要なポイントとして共通しているのだと痛感している。

私は約20年前に太極拳を始めるまで、自分の体の各部分を隅々まで意識することはほとんどなかった。

強いていえば、仕事でPCを長時間使いながら肩こりを感じて辛かった時期に、首と肩をほぐすためにアロママッサージに行ったり、ジムで体をほぐす程度だった。そういう理由で、当時は肩関節や首によく意識が向いていた。

人間は目に見える範囲や、自分の頭に近い方にどうしても意識がいく。目や脳から遠い下半身の部位などは、どうしても、何かしら傷みがあるとか特別な理由でもなければ、日常生活において意識をあまり向けることなくスルーしてしまう。

一日の中で、自分の指先、手先が視界に入ることは何度もあるけれど、足先が視界に入ることはほとんどない。お風呂に入って足を洗う時や靴下を履くときくらいだろうか。

だから私は太極拳を始めるまで下半身の関節、特に股関節のことを強く意識下においた経験がなかった。太極拳を始めてから、初めて自分のあらゆる関節に意識を向け、特に股関節まわりの筋肉をいかにして緩めながら姿勢を保つかを意識するようになった。

稽古開始から最初の2~3年くらいは、力を緩めているつもりでも、先生からは、「まだまだ肩や腕や股関節に力が入ってるねぇ~」と言われていた。その時は、自分では“最大限に全身の力を抜いていたつもり”だったけれど、太極拳歴の長いベテランの先生からみれば、私の体の無駄に力んだ感じは簡単に読み取れたのだと思う。

最近になって、私自身が長く稽古を継続したことで、自らが教える立場にもなり、初めてその当時の師匠の感覚が分かってきた。やはり、どんなに「力を抜いてリラックスを~」と言っても、初心者の方々は力の抜き加減の要領がはっきりと分からなくて、力を抜いているつもりであっても、体のどこかしらに無駄な力が入ってしまう。

そこを乗り越えるために、稽古のたびに無駄な力を抜くことを促し、肩をポンとたたいてリラックスを促し、声をかけ、コツを伝えながら、みんなで繰り返し動作を続けていく。

“無駄な力みをとる訓練”を何年か重ねていけば、時を経て、「稽古に入った途端、常に、頭で考えなくてもフッと自然にすべての関節が緩む」ようになってくる。

おそらく我々は幼児の頃、柔軟な体を誰もが持っていたはず。

だけど、成長し、立ち上がって外を歩き回り、行動範囲が広がっていく中で、省エネで体を動かす術を体得する。さほど関節を緩めたり大きく開かなくても、チョコチョコと小幅で歩いて移動し、長距離になれば車や電車に乗ってジッとしていれば良いだけ。

便利な世の中だから日常生活では体を大きく動かすことなく活動できる。いつのまにか運動不足の大人になり、勉強や仕事で無理な姿勢を長く続けたりして、
生まれた頃に非常に柔軟であった股関節まわりも、力を抜いて緩めるコツを忘れ去ってしまう。

そうして簡単には緩むことのない、筋肉が凝り固まった体になっていく。デスクワークが長い仕事の人や、長時間いつも同じ姿勢でテレビをみてしまう人は、臀部の血流も悪くなり、股関節まわりの筋肉も硬くなり、よほど意識してほぐす時間を作らなければますます凝り固まってしまう。

太極拳も、他の運動(スポーツ)も、緩みながらパフォーマンスが向上していく。ガチガチに固まった体では良い運動もできないし、良い結果にも繋がらない。自分の筋肉や関節を柔軟に、自由自在に使える体でありたい。

スポーツに限らず、日常生活でも同様に柔軟な体でいる方が活動しやすい。関節が硬い人ほど怪我をしやすいし、関節の硬さはそのまま筋肉、血管の硬さに繋がり、血流の悪さや血圧、ひいては自分の健康そのものに大きな影響を及ぼしてしまう。

太極拳の動作をする際に股関節を緩めるには、無駄な力をフッと抜き、たわめる。決して、カクンと股関節を“折る”のではない。股関節をゆっくりと緩めていくことで、周囲の筋肉までリラックスできる。

そして頭から足先までの姿勢をすべて整え、足裏に体重を乗せ真っ直ぐに立ち、股関節や膝関節に過剰な負担がかからないようにする。大腿四頭筋には、やや体の重みをあずけた格好となり、適度な張りが出てくる。

こうして脚全体のすべての関節や筋肉を協調させ、バランスよく使うことで、無駄のない、緩やかな太極拳動作に繋がってゆく。




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