大腿四頭筋や足首を甘やかす現代の椅子生活

長期間、運動や体のケアをしていない場合・・


私は、自分自身も中国武術等を師に習い学びながら、自らも微力ながら太極拳などを指導させていただく立場にある。最近私のところへ習いに来て下さっているのは50代から80歳くらいまで、年齢層は様々である。年齢層、性別、運動歴、体力、気質、性格など、それぞれ個性がある皆様に会うのを、毎回楽しみにしている。

ところで稽古を行う際に、教室で皆様を前に感じていることがある。それは、特にご年配の方の中に「しゃがみ込む動作」ができない方がいらっしゃるのがちょっと心配なのである。とりわけ初心者の方の中には、長期間、慢性的な運動不足だった方もいらっしゃる。

そのような方は、足腰の柔軟性を取り戻すのに数ヵ月どころか1年以上かかる人もいて、とにかく柔軟性を取り戻すのは至難の業である。高齢だから体が硬いのではない。なぜならば、たとえ80代の人でも適宜、運動してきた人は体が柔らかいし、(病気や怪我などの例外を除けば)関節の可動域も決して狭くなったりしていない。

深くしゃがみ込めない人は、とにかく足腰周辺の筋肉が硬直化したり、関節の柔軟性が乏しくなっていらっしゃる。太極拳の型「下勢独立」や、練功十八法(中国の健康体操)の動きの中で、(勿論その人ができる可能な範囲で)沈み込む動作をやってみた時、ハッキリと体のそこかしこの部分の硬さが分かるのである。こういった方は、おそらくヤンキー座りもできないはずである(まぁヤンキー座りは別にしなくても良いけど💦)。

現代のマンション住まいの方などは、和室は猫の額ほどのケースが多く、和室なしのマンションだって結構あるようだ。これは住む人の趣向の問題なのでどちらでも良いのだが、とにかくフローリングメインで「ほぼ椅子に座る生活ばかり」という人はかなり多いと思う。マンションやアパートだと、いや一軒家でも、トイレも今どきはほとんどの家が洋式トイレだろう。和式トイレのようにヤンキー座りしなくても用を足せる。

昔ながらの純和風の一軒家に住むとか、あるいは日本古来のお稽古事でもしていれば話は別だが、多くの日本人は椅子やベッドの生活に慣れ親しんでいる。

かく言う私自身も、畳にすわる頻度は昔に比べてグッと減っているので、太極拳を長く稽古していなかったら、足腰の関節をあまり曲げることが無くなり、しゃがみ込めなくなっていたのかもしれない。


とにかく現代の生活は、しゃがみ込んだり正座をしなくても、ほぼ椅子のみで生活できるものである。公共の場での公衆トイレはだいたい和式と洋式の両方をみかけるが、下まで座れなくて和式でできない人は、洋式に入れば事足りる。

最近の結婚式や葬儀場は椅子がメイン。近所のお寺に行けば、膝が悪い高齢者のために(畳の上に!)椅子が用意してあったりする。


ただ、そんななかにも最初から足腰の周辺が柔軟な人もいらっしゃる。太極拳を習いに来て下さっている方の中には、稽古開始時から足の柔軟性が備わっていて柔らかい人が、例えば70代でも数人のうち1人くらいはいらっしゃる。

そのような方に尋ねてみると、自宅での食事の際などに、昔からずっとちゃぶ台のようなテーブルで畳の上に座って食べる習慣だったとか、日本の伝統文化の習い事を長くしていたからしゃがみ込んで正座することに慣れているとか、そんな話を聞いた。

完全に膝を痛めていて炎症が起きている人は正座は厳禁だろうし、膝が正常な人もやみくもに長時間の正座をするのは良くないだろう。でも若い頃から適度に習慣づけて、正座などでしゃがみ込んで足腰の筋肉を自然とほぐしてきた人は、割と柔軟性が保たれているのだと思う。

畳の生活かフローリングの生活かはその人の自由であり、本来はどちらでも良いのだけれど、足腰周辺の柔軟性を考えると、とにかく「正座を時折やっていた」という人の方が、断然、筋肉や関節の柔軟性は保たれているようだ。

サザエさん一家みたいな生活なら、家族全員、足腰が柔軟なのではないだろうか。カツオが波平から「ばっかもーん!」と叱られるシーンでは、畳に正座させられていた気がする。


足腰の関節の柔軟さは将来老いた時の転倒予防になる


実際に沈み込んで正座をしてみると、大腿四頭筋、膝まわり、足首まわりの筋肉が特にミョーンと伸びるのを感じる。骨盤の角度も変わる。

長時間の正座は血流を害するので逆に良くないと思うが、生活のなかで時々正座してみるのは結構良いストレッチになる。


ご年配の方が、長い年月をかけて硬くなった筋肉、関節をいざ柔軟にしようと思っても、いきなり張り切って強くストレッチするのは危険である。長期間かけて硬くなったものは、決して無理をしないで、少しずつ時間をかけて柔軟にしていかなければならない。

例えば太極拳の「弓歩」を、左弓歩、右弓歩、交互に何度か繰り返し歩むだけでも、過度な負担をかけることなく、無理なく、足腰の柔軟性を高める訓練になる。


もちろん足腰だけを整えれば良いという問題ではなく、健康の為には全身状態も良くしていかなければならないが、さしあたって大腿四頭筋のような大きな筋肉の硬直化は全身の血流に影響するので、これからの季節は冷えを誘発してしまうから要注意である。

また、足首まわりに関しても、柔軟性がないと、寒い時期は特に朝起きた時など冷えていて体も硬く、転びやすくなってしまう。


無理なストレッチは良くないけれど、毎日ほどよく体のいろんな部分の筋肉を緩めること、更には、心を穏やかにすることで体の無駄な力を抜いて、体も心もリラックスする事を大切にしたいものである。


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