野村萬斎さんの背筋の伸びと体幹の強さ

私は、野村萬斎さんが好きである。熱狂的なファンとまではいかないが、過去に数回、狂言の舞台を観に行ったことがある。それに萬斎さんが出演しているテレビ番組はなるべく観るようにしている。一昨年の主演映画も観に行った。(正直な感想を言うと、この映画『七つの会議』は、映画じゃなくテレビドラマ向けの内容だと思った。)

それから、萬斎さんと言えば
2020年の東京オリンピック開会式の総合演出の重責を担っておられたが、つい最近、この総合演出チームが解散するというニュースを知り、ガッカリしたところである。

昨年、
2020
年に入ったばかりの頃は、「萬斎さんが演出を手掛ける開会式はどんなものだろう」とワクワクしていた私だったが、コロナ禍によるオリンピックの延期でこれを観ることはできなかった。

今年オリンピックが開催されたら、後任の演出の方がどのような開会式を魅せて下さるのか気になるところ。前任の萬斎さん達のチームが予定していた内容が、少しでも踏襲されることを期待したい。


野村萬斎さんは軸がブレない

萬斎さんは、過去に御自身の著書で、自分のことを「狂言サイボーグ」であるとおっしゃっている。狂言には、室町時代から培われ代々受け継がれてきた「型」がある。萬斎さんは、幼少の頃より御父様の万作さんから、この「型」を非常に厳しく叩きこまれたとのこと。

伝統芸能を受け継ぐ重責とはいかなるものだろう。想像もできない。萬斎さんは、子供時代も学校から帰ったら稽古、稽古の日々。のんびりお友達と遊ぶ時間は、他の御家庭のお子さんに比べて極端に少なかっただろう。

青年になり、女性とデートの約束をしていても、舞台のことで急にデートに行けなくなり、(当時は携帯が無かったから)代わりにお母様に行ってもらった事があるというエピソードも書かれている。

萬斎さんも若い頃は、自分の立場、つまり父親の跡を継ぎ、狂言の舞台にひたすら立ち続けることを素直に受け入れられず、狂言から逃れられないことへの反抗心から、逆に狂言以外のことをしきりに学んでみたり楽しんでみたりした時期があったようだ。

でもそのような経験を経ながら、若かりし頃の萬斎さんは『三番叟』を演じてみて、狂言の本当の素晴らしさにのめり込んでいったそうだ。


狂言イメージイラスト

萬斎さんが狂言の舞台に立つとき、すり足で進みながらスッスッと平行移動して、頭や胴体は絶対にブレない。ジャンプしても、スタッ!と綺麗に着地する。足先が過剰にゆらゆらすることはない。

無駄な力は抜けていながら、体全体は1つの塊になって滑るように移動する。萬斎さんは、アスリート並みの体だと言われたことがあるらしい。素晴らしい体幹力とバランス感覚。

それから萬斎さんは、舞台に立っているとき以外、普段歩いているときなどに、人から「遠くから見ても、姿勢ですぐに萬斎さんだと分かるよ」と言われたそうだ。幼少期から体に叩き込まれた姿勢の維持の仕方は常態化しているのだろう。


太極拳と狂言には共通項がある

こじ付けの様に思われるかもしれないが、太極拳と狂言には共通項がある。

それは、
「型を学ぶことが基礎練習であること」。

そして、
「体の軸がブレないように動くこと」。

太極拳を始めたばかりの初心者は、足の置き方、手の位置、頭の置き方の要領、姿勢の維持の仕方など、「型」を徹底的に学ぶ。無駄な力が入らないように気を付けながら、何度も何度もひたすら型を繰り返す。

習い始めの初期に個性を出すことは別に必要ない。基礎ができていない人が、最初から自分独自の持ち味を出す必要はない。まずは太極拳の基礎をひたすら学んで、徹底的に体に馴染ませる。

萬斎さんは「狂言サイボーグ」という表現をされているが、太極拳の愛好家は「太極拳サイボーグ」になるべく、動作の要領を体に覚えさせていく。


型を繰り返すうちにインナーマッスルが鍛えられていく

1つの型や套路を繰り返すという太極拳の習練の過程において、インナーマッスルが徐々に鍛えられていく。だから数年も経過すれば、体幹がしっかりしてくる。

体の軸がブレない状態で動けるようになってくる。そしてバランスよく片足立ちなどもできるようになってくる。

太極拳においても、狂言師の萬斎さんの様に、長い年月稽古している先輩方は、皆さん姿勢が良い。無駄な力みは無いのに、いつもスッと背筋が伸びている自然な立ち方である。

野村萬斎さんと言えば、舞台人なので(当然と言えば当然かもしれないが)、空間の使い方が素晴らしい。萬斎さん自ら舞台の演出も手掛ける才能をお持ちである。幼い頃から培ってきた知識と、重ねてきた努力の上に成り立っている実力によって、とにかく魅せる才能に長けている人。

太極拳は舞台芸術ではないけれど、動画サイトなどで中国人選手の高度な競技太極拳の演武をみてみると、得も言われぬ伸びやかな美しさがある。

その美しさの裏に、物凄い努力によって得た技術、そして関節と筋肉の緩やかさを感じずにはいられない。

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