気を浪費せず、養うこと

生きるために自己に宿したエネルギー


気の概念は、中国、春秋戦国時代から既に存在したと言われている。いにしえからの中医学の考え方では、人が生きるためには、大きく分けて3つの分野の「気」を得なければならない。


1つは、先天の気

2つめは、水穀の気・・・生後、後天的に得る「飲食物からの栄養」

3つめは、清気・・・生後、後天的に得る「肺から取り入れる空気(酸素)」



上の3つのうち、「先天の気」について。いにしえからの中医学の考え方では、人間には、生まれたときから自身の体内に持っている気のエネルギー「先天の精気」(先天の精、または先天の気ともいう)がある。この先天の気は、生まれるとき両親から受け継いだもので、体内に内包して生を受ける。

しかし人間は、年を重ねるにしたがって、体、脳、臓器を酷使し、元々持っていた自己エネルギーを消耗していく。

中医学では「何事もやり過ぎは良くない」という考えが根底にある。例えば、江戸時代の学者、貝原益軒の持論「腹八分」に代表されるように、日本の健康養生法も中医学の影響を受けており、過剰に体や心に負担がかかる事を控え、ほどほどにする、つまり「過ぎたるは及ばざるが如し」の考え方が根付いている。過労やストレス、暴飲暴食などが続けば、気の消耗、浪費につながってしまう。

最近、テレビで中国ドラマをみたとき、心身の弱った人を医者が診察して「気が不足しています」なんていうセリフがあった。気が不足する「気虚」の状態になったら、「気を養う」ことが重要になってくる。

気を養うには、食事から栄養分をしっかり取る必要がある(水穀の気)。さらに広義で捉えて健康について考えれば、食事以外にも、適度な運動、質の良い睡眠、森林浴のような心地よい環境に身を置くなどしながら、“新鮮な空気”を吸うこと。

これらを日々実践しながら健康に配慮した生活をすることで、不足した気を補い、体の状態を調整し、健やかに生きるための糧とする。

気は体の内外を巡る


人体の多数のツボ(経穴)は、「重要な気の出入り口」だという考え方がある。中国の気功健康法などでは、天に向けて手をかざした場合、天から良い気を取り入れるイメージを持ち、そのことで心地よさが増して脳波にも良い影響が出る。しっかりと地面に根を下ろした足裏からは、大地のエネルギーを取り込むような意識を持つと、一層気力がみなぎる。

こういった考え方は、一見すると非科学的であやしげな考え方に映るかもしれない。でも、視点を変えてみれば非常に合理性がある。太陽に手をかざすことで体内でカルシウムが生成されたり、足裏のイメージを持つことで脳波に良い影響を与え、良質な脳内ホルモンが生成される。こういった現実的な健康効果が期待できる。

それから気を養う意識を持つことによりストレスが緩和され、副交感神経優位のリラックス状態に精神を保つことができる。

東洋医学的には「気を養う」という漠然とした概念的な言い回しになっているけれど、西洋医学的な見地からみれば、実際に体内の物質が変化し、血流が促され、直接的に「体の調子を整える」ことに繋がる。

ところで、体の細胞の中のテロメアという物体が老化と共に短くなってしまい、これが寿命の長短に影響を及ぼすという。心身を痛める不摂生を続けてしまうと、細胞レベルでダメージを受けたり、呼吸が浅くなって酸素が十分に細胞の隅々まで供給されにくくなり、細胞の生まれ変わり、エネルギーの循環が阻害されてしまう。

だから、なるべく心身を優しく労り、体のメンテナンスを続け、良い空気を吸い、気血の巡りを良くする意識を持つことが重要である。

気を養い、巡らす、気功養生法


そういえば以前、テレビでたまたま中国の公園の風景が映ったとき、おじいさんが植え込みの木を目の前にして、わしゃわしゃと腕と胸をゆり動かし、自分の方に“木々からの良い気を取り込む”ようなしぐさを続けていた。これはまさに気を養うための気功。外気から良い気を体内に取り入れる行為である。

このおじいさんを、気功の概念を知らない人が見れば、挙動不審な人物としか思わないだろう。でも、日本にも「陽気に誘われて・・」なんて表現がある通り、このおじいさんは、晴天の日に公園に出て、

・屋外の緑のそばで良い酸素を吸い、

・体を揺り動かすことで血液の巡りも良くなり、

・脳内では心地よいときに出るセロトニンが巡る。

そんな「合理的な健康づくり」をしているのである。

結局、いにしえの中医学の考え方というのは、非科学的なことを言っているようでありながら、実は角度を変え西洋医学の視点と照らし合わせれば、医学的な検証にそった効能を期待できるものである。合理的で、かつ理論体系がしっかりしている。おおよそ2000年前から、中国にはこのような整備された理論体系があったことに驚く。


森林浴 イメージ


気血を巡らす太極拳


太極拳はもともと武術であって気功ではない。ただ、その習練の過程における心身の保ち方には、気功的な要素がある。ありがたいことに、私は太極拳をやるようになってから、内臓や脳を含め、「自分の体を形づくるあらゆるものを労わる。体を構成するあらゆる部分を有効に使う」、そんな感覚を常に大切にするようになった。

これは稽古を何年も重ね、少しずつ年数を経て会得してきた感覚で、太極拳や気功や中医学を学び始めたばかりの初心者だった頃は、そんな感覚はまだ無かった。

今は、太極拳や、気功、中医学への基礎的な学びを通して、頭のてっぺんから足の先まで意識して動く感覚を楽しんでいる。生活環境を整えたり、太極拳などの適度な運動を行いつつ、気血が順調に巡る体をキープすれば、おのずと心身は整う。

日常生活において、対人関係でちょっとしたストレスが溜まったり、バタバタと忙しい1日を過ごしたら、一瞬でも自分の掌や足の裏、体内へ意識を集中し、深呼吸したり、軽くツボを押してみると、ふっと全身の無駄な力が抜け、体内を優しく気血が巡る感覚が得られ、とてもリラックスできる。

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