「相手に従う」=「負け」ではない

強いチカラに無駄に反発しない


もし、ものすごく図体が大きい強い人が、上から自分を押さえ付けてきたらどうするのか。

自分が「潰されまい!」と思って、必死に上方向へ相手を押し上げようとしても、相手の力が強ければビクともしない。そして自分はアッサリ崩されるだろう。

焦って必死になって抵抗しても、自分が体力を消耗してしまうだけで徒労に終わる。無駄な抵抗を続けたり、相手をみやみに煽ったりすると、相手の攻撃性は増すばかりなので、かえって逆効果になる。

だったらどうすればいいのか。

縦方向で上から押さえつけられたら、まずは相手に従い、緩み沈む。
縦方向から来た力を、横方向へ誘導。

太極拳には、【相手に従う】という大切な哲学がある。

捨己従人・・・己を捨てて相手に従う


自分が必死に抵抗しても、相手が剛力だったら簡単に押しつぶされそうになる。
上から押さえつけられたら、抵抗して相手を上へ跳ね上げるのではなく、相手が押してくる力に「従う」。

真上から押さえつけられたら緩め沈む。脚の関節を緩めながら、相手の力がこちらに向かってくるベクトルに沿って、自分の身を低くしていく。低くするとき、頭と体を傾けてナナメになったら自分が倒れてしまうので、できるだけ体を立て、真下の地面へと吸い込まれるように沈む。

自分の身が沈むと、上から押していた相手の力は、自分の沈み込みに伴って弱くなっていく。弱くなったタイミングで、間を持たせずに自分の目線から胸まわりを床と水平に捻り、軸を回転させ相手を別の方へ誘導、つまり相手のベクトルの向きを変化させる。

押される イメージ

柔軟な体のまま重心を真下に向ければ、自分は安定していられる。相手との接点は強く握り返さず、張り付かせるようにして相手を緩やかに誘導したい。

逆に、横方向から押されたら、少しばかり横に受けて吸収しながら、フェイントして上方向か下方向へ、相手の力をさりげなく誘導したい。

もし自分が、手っ取り早く相手をあしらおうとして、焦って跳ね除け、ジタバタ抵抗すると、かえって失敗する。それよりも、まるで相手に寄り添うように同じ方向へ進んだ方が、相手の怪力のゆくえが定まらなくなる。そして、相手の一瞬の怯みを逃さないようにしたい。

そうすれば、最初に強めに押されても、上手く流れを自分有利に転換できるかもしれない。



人間関係も押しまくるだけでは上手くいかない



このような太極拳における相手との駆け引き、動きのセオリーは、人間同士の付き合いにも通じるものがある。

自分の心に余裕がなく、ただ無駄に、考えなしに焦って相手を攻撃し、自分をアピールすること、自分を守ることに必死過ぎて、周りが見えなくなる。そんな状態を、人間なら誰しも過去に経験したことがあるかもしれない。

「私という人間らしく居なければ!」

「私が相手を諭して、正しい道に導いてあげなければ!」

「私という人間が、周囲の人間を主導しなければ!」

「私という人間が、まずは率先してやらなければ!」

そんな状態に強く陥り過ぎると、人は空回りしやすくなり、かえって他人からの賛同も得にくくなる。押し付け、押し売り、強引さ。相手の気持ちを無視してコトを進める。ただ我が強いだけ。周囲から反発を受けるだけ。

それではいけない。人間は社会集団をつくって生きるイキモノだから、自分も他人も心地よく生きるためには、相手の意を汲み取ることも必要。

勿論、ここぞ!というときの主張、意思表示は、生きる上では必要なこと。だけど、「主張」と「我儘」は違うということを認識しなくてはならない。

「私が!
私が!」ではなく、同じ空間にみんなで今、いっしょに存在していることを感じたい。

学校、職場、趣味の団体、地域の繋がりなど、どこかに属せば、そのことが社会に参加する手段となり、他人と繋がることになる。そんな社交の場に身を置けば、なんでも自分の思い通り、我儘は通らないことも多い。当然、悔しい思いをすることだってある。

でも、そんな試練があることで人は学ぶ。一人よがりの考え方を、常に軌道修正していく良い機会になる。

血気盛んに意見をぶつけ合うだけなら、水掛け論になってしまうだけ。考えナシの怒りのぶつかり合いの応酬は、決してお互いの進歩には繋がらない。ストレスしか生みださないだろう。

太極拳は、何度も、何度も、繰り返し。繰り返し稽古しながら、ひたすら姿勢を整える。毎回、毎回、それの繰り返し。それは体をコントロールする練習でもあり、精神のコントロールの為でもある。

他者への無理強いや、理不尽に我を通すことがないよう、常に自分の心を調整できるようにするための訓練になる。

太極拳のチカラ加減や、稽古の心構えを学ぶたびに、

「行くときは行く!」

「でも決して出過ぎない。」

ということを学ぶ。

このことが、誰かと一緒に過ごす極意、いろんな人達と共存していく、生きるための知恵になる。

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