焦りを感じるとき
WBCをみて
先般のWBC。日本の野球界にとって歴史に残る大会だった。私が野球観戦に夢中になったのは昔々のことで、工藤公康さんが現役時代によく応援していた。当時はよく球場にも足を運んだ。でも近頃はずっと太極拳がらみの日々を送っていたので、野球や他のスポーツ観戦に目を向けることが無かった。
私の親族はいつも熱心に大谷選手の試合をテレビ観戦して応援しているけれど、私自身はずっと野球などに関心なく日々を過ごしていた。しかしそんな私でさえ、さすがに今回のWBCでは、“にわかファン”となり気分が上がった。
決勝の日、私は(もうすぐ期限が切れる)パスポートの更新に行き、パスポートセンター内のテレビ画面で優勝が決まる瞬間を観た。優勝が決まり、心の中で「良かった~」と思いながら申請処理の順番を待っていたら、あとからパスポートセンターに入ってきた高齢女性に話しかけられた。「優勝しましたか?」と。
その高齢女性に優勝したことを告げると、女性は「ああ、良かった。気になっていたんです!」と言った。そして今度は、そのまたあとから入ってきた若い女性とも会話しながら、「優勝したそうです!よかった、よかった。」と一緒に喜び合っていた。たまたまパスポートセンターで居合わせた見知らぬ他人同士が侍ジャパンの優勝を喜び合うとは、単純にスポーツっていいなと思った。
ああいった世界的なスポーツイベントになると、当たり前だけど上位のチームはどの選手も一流で、高い技術を持っているのは当然なので、最後はメンタルの整え方が大きく勝敗に影響するだろう。2023年、WBCでの大谷選手の目ヂカラ、遠吠えするような歓喜の表情。気迫は周囲に伝染する。もしあの試合で誰か1人でも諦めモードになってしまったら、派生して気落ちする選手も出ただろう。
メンタル面、心の揺れはその人の表情に強く表れる。野球から話がそれるけど、スポーツ競技で歴史に残るシーンといえば、浅田真央さんの事を思い出す。世界で最も素晴らしいスケーターの1人であり、競技選手時代は冬季オリンピックの金メダルを惜しくも逃した。あのときの顔の表情、目の様子はとても印象に残っている。瞳は怒りや緊張でいっぱいの様子にみえた。スケートの演技は歴史に残るものだった。ただ精神面での強さと落ち着き、心のコンディションを整えることに関して、ライバル選手の方が上手かったのかもしれない。
心を整える時間を持つこと
狭い限られたエリアで細々と運動をしている私でも、日々の稽古において精神面の影響を受ける。
太極拳の繊細な動きには、心の揺れが大いに表れる。人間だから、常に100%同じ状態とはいかず、特に未熟な私は修行が足りないので、何をするにもまず心を整えなければ上手く臨むことができない。
心と体、それから人が醸し出すもの。すべては繋がっている。心に余裕がない人は、外側にそれが表れる。
丁寧に心身を整えることを意識して生活すれば、練気化神へと繋がる。気を練れば神と化す。神とはつまり、自分の内なるもの。特に心の在り方は、体内の巡りを経て外側に表れる。
オーラという言葉があるように、人は普段から内なるものを独特の雰囲気として発している。焦ったり、おどおどしていても良いオーラは出せないと思う。頑張り過ぎずに頑張って、自分の地盤を作っていきたい。
太極拳の良いところは、日常生活で少しばかりストレス要因を抱えているときでも、稽古に入ればだんだん落ち着いてきて、心地よくなってきて、ゆっくり動いている間に血流も促され、最後には心身がスッキリして稽古が終わる。このことに何度も私は救われてきた。
もともと打たれ弱く、おまけに物事を深く考え過ぎるきらいがあるため、精神的な疲れがたまる事もしばしば。そんな自分が、おおかた平常心をキープできているのは、やはり太極拳と出会ったおかげだ。
焦りを克服するには
私は近頃、多忙だった。ずっと複数のことを同時進行で行っていた。
過去の自分を思い出すと、30代前半までは、1日に複数のことをサッサと処理して、忙しかろうと何だろうと、何でもござれ!、何でもすぐにさばいて、おちゃのこさいさいだった。でも年々、1日の処理能力が格段に落ちてきている。これが老いに近づいている、という現実なのだろう。
自分でも一番よくないと感じるのは、練習不足をつい忙しさのせいにする、つまり言い訳だ。言い訳していることは自分で自覚しているわけで、自分の駄目さ加減を実感し、それで負のスパイラルに陥り、あれもしなければ、これもしなければと、また焦ってくる。
過去にできていた事が十分できなくなった自分に対し、嫌気がさしたり、焦ったりを繰り返す。自分はどんな分野においても中途半端な人間だと思えてしまい、また焦る。
そんなときメンタルを落ち着かせるには、ひとまず開き直るのが良いのかもしれない。「人生のなかで(やること満載の)こんな状態になる事もあるさ」、「今はそういう時期なんだ」と。結局、自分が焦ろうと焦るまいと、1日は24時間しかない。自分のキャパも決まっている。
本当に時間が取れない多忙な日でも、実は鍛錬する短い時間なら取れる。立禅なんか、その場で短時間でできる。焦りの中に、あえて静寂を持ち込めば、過剰な緊張は無くなり、筋肉と心の緊張も緩む。ドーパミンとセロトニンなど“陰陽バランス”が整う。だから焦りがあるときこそ、ちょっとの時間にできる事をやってみる。
日常の中で、簡易的にでも良いから短く稽古すればいい。私が好きな日常の中での稽古は、揺れる電車の中で立禅をすること。これ、バランス感覚を養うのにすごく良い。昔テレビで中国武術の達人が、揺れる小舟の上で動作をしているのを観た。これを疑似体験できるのが電車の中だ。
私が最も好きな足を置く場所は、電車の床に片足、もう片方の足は連結部分に乗せて立つ状態。よりよく揺れを体感できて良い。乗っている間、まるで小舟の上で揺られているようで、体軸を整える練習になる。足裏の繊細な感覚が養われる。
(でも連結部分は危ないので、ほどほどにしようと思う💦)
とにかく小さな事でも良いから、できる事からやって行こう。一足飛びに上手くなりたいとか、短期間で成果を出そうとか、そんな欲の塊にはならず、一歩一歩、今の自分にできる範囲でやっていく。
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