太極拳仲間の80代の方々をみて思うこと

いつまでも！生涯続けられる太極拳

私の周りには、70代～80代から、健康法として太極拳の稽古をスタートした稽古仲間が沢山いらっしゃる。そのくらいの年齢から太極拳を始めた人でも、20年くらい太極拳を健康法として楽むことが可能である。あくまでも健康法として、高齢者が無理なくできる稽古内容であればという前提ではあるが・・。

太極拳は、年を取ったからといって途中で辞めなくてもいいので、いつまでも生涯続けることができる。実際に90代の愛好者もいらっしゃる。指導する側にも、80代の方々は多くいらっしゃる。激しく動きまわったり飛び上がったりしないから、80代、90代のベテランの先生方が円熟味を増した状態で指導できるのである。

本場中国にも、そういった高年齢の熟練指導者は多くいらっしゃるようだ。私は、ある中国の太極拳大家の方の本を愛読しているが、その方は最近90代後半で亡くなられている。亡くなる直前まで、現役の指導者として活動されていたそうだ。生涯現役で太極拳。素晴らしいと思う。

つい最近、ちょうど80歳の方が、私が出入りしている教室に新しく入会された。太極拳が体に良いと聞いて「やってみたいと思った」とのこと。本当に素晴らしいと思う。

もし何かを実行する時に、足踏みばかりしてしまったり、深く考え込み悩んでばかりのタイプの方は、習い事を始める時も身構えてしまって悩み、結局、二の足を踏んで入会をためらうケースだってあるかもしれない。

でもこの80歳の方は、テレビの健康番組をみて太極拳が体に良いと知り、即、行動開始！ テレビで知ってから１週間以内に教室を探し、体験に来られた。いくつになってもこのように行動力があり、積極性をお持ちの高齢者の方は素晴らしいし、見習いたいと思う。


「いい年して恥ずかしい」なんて事はない！

そういえば過去に、（こういう事は、稀なケースとは思うけれど）残念に思ったことがある。

ある太極拳未経験の70歳くらいの方が、私が出入りしている教室へ一度体験にいらした。その方は始終、何となく恐縮した様子だった。なぜ恐縮しながら太極拳を体験されたのか。稽古終わりにその理由が分かった。

体験に参加する前に、自宅で「健康の為に太極拳をやってみたい」と家族の前で切り出したときに、ご家族から「いい年して恥ずかしい」、「今更なぜ太極拳なんか始めるのか」と批判され、反対されたという。それでも思い切って教室に来てみたものの、体験のあいだ中、何となくバツが悪いような気分だったとのこと。

ご高齢の方が趣味などに参加される場合、行き帰りの移動の心配や、事故やケガを心配する等の理由ならばご家族の反対も分かるのだけれど、「いい年して恥ずかしい」というのはどういう事なのだろう。

その人がやりたい、やってみようと思った時が、その人の旬の開始時期だと思うのだが、いい年して・・というのは、一体何歳からが駄目で、何歳ならば太極拳をやっても良いというのだろう。人の価値観というのは、本当に様々である。

習い事というのは、よほど他人に迷惑でもかけない限り、個人の自由で始めて良いものだと思っている。どの年齢層の方であっても、とりあえずチャレンジしてみて、もし何か不都合があれば、途中で辞めたり休会もできるだろう。

実際に稽古を体験したとして、ご本人が「やっぱり合わないから無理」とか、「他の運動がしたくなったから太極拳はやめておこう」とおっしゃるのならば、これは仕方ないことだと思う。

でも、先ほど挙げた「いい年して恥ずかしい」と言われてしまったケースのように、特段できない理由がある訳でもないのに、ただ“年を取っている”という理由だけで趣味などにチャレンジすることを制限され、楽しく稽古を体験することすら憚られる人がいらっしゃったのは、何とも残念なエピソードだった。

子供や高齢者というのは、家族や親族の中で、確かに周囲に頼らなければならない場合も多い。だから子供と高齢者は何となく立場が弱かったり、発言権があまり無いというご家庭が、実際に結構あるのかもしれない。

でも、最近よく「人生100年」と言われる時代になり、100歳以上の人が昔に比べ格段に増えている。だから健康維持の為にも、何歳になっても運動にチャレンジしたり、趣味のグループや仲間の中に入っていって、そこに身を置く機会がある方が、かえって健全で良いと思う。

太極拳は、グループ・流派によって稽古内容が違うので、もしご本人に持病があったり、安全面などが心配な場合は、最初の体験だけでもご家族が同行し、「これなら大丈夫かも」というのを一緒に確認すれば、高齢の方でも入会しやすいし、ご本人もご家族もより安心してチャレンジできるかもしれない。

どんなことを始めるにしても、子供や高齢者が一歩外に出れば、危なっかしい面、リスクはゼロではない。細心の注意は必要である。だから新しいチャレンジに抵抗を感じるご家庭もあるだろうけれども、人生が100年を超えるかもしれないこの時代に、70代～80代の人が「年だから恥ずかしい」という理由で、物事を片っ端から諦めていくのは、非常に勿体ない気がする。