めざすは「サグラダファミリア」の安定感

先週、UNESCO(ユネスコ)の無形文化遺産に、日本の伝統建築工匠の技、中国の太極拳、フィンランドのサウナ文化等の登録が決定したそうだ。ネット上では賛否あったようだけれど、私のような太極拳愛好家にとっては、単純に喜ばしいニュースである。

太極拳も建築物もアーチの形で安定させる


UNESCOの世界遺産繋がりの話題というと強引な気もするが、私は昔、『サグラダファミリア』をどうしても一目見たくて、スペインのバルセロナへ旅行したことがある。そのとき現地でそびえ立つ塔をすぐ目の前にして、首を上へ向けて見上げた。かなり真上を見上げないと、てっぺんが見えないくらい高い。石造りでよくあんな巨大で高くそびえる塔を建てたものだと思う。人間の才知とは本当に凄いものだ。

サグラダファミリアイメージ

サグラダファミリアは、とんがりコーンというか、もぎたてのトウモロコシのような形の塔が何塔もある。集まっている石材の重量を考えると、よく平然と(?)あんなふうに建っていられると驚くばかり。テレビなんかで遠くから塔を映した様子をみると、長いのでいつかポキッと折れそうな気がする。あのような縦長の塔を石で造って、折れないように、倒れないようにするのは至難の業だろう。

ガウディは構想段階の実験で、両側から吊るした糸に重りをつけて垂らしてできるアーチ曲線を作り、何度も実験を繰り返し、“アーチ型を上手く利用することで、巨大であっても安定した建築物を建てる”ことに繋げたという。

建築のノウハウは私にはさっぱり分からないけれど、この実験模型のレプリカは、私も過去の旅行の際に見たことがある。実物のサグラダファミリアの巨大な塔群を見たときはさすがに感動したけれど、実験模型のレプリカを見たとき、建築ド素人の私は「何だこれ? よくわからないなぁ~」というのが正直な感想だった。

でも今はとにかく、あれほどの石の重量でも潰れない巨大なものを、現実に形として建てていくのは本当に凄いことだと素人なりに思える。最近は特に、太極拳を長く稽古してきたから、人間であれ、動物であれ、建築物であれ、重力に逆らうことなく安定して立っているもの(建っているもの)をみると、毎度毎度、妙に感心するようになってしまった。

サグラダファミリアの塔は、「上部の重量を、下部で分散して支えるしくみ」となっている。・・おや?
これは太極拳の「上虚下実」に通じるものがある。

肢体をピーンと張ったら強くなるのではなく倒れやすくなる


太極拳の動作をするときに、もしも両脚の隙間なく太腿を真ん中にピッタリくっつけて、全ての関節を緩めずにピーンと張って突っ立っていたら、その棒状の脚は硬い固形物のようなものなので、柔軟さや安定感は得られない。このピーンと張った状態では、ちょっとでも押されたり、何かに躓けば、バタン!と倒れてしまう。サグラダファミリアの塔も、もしアーチ型じゃなく上から下まで同じ幅の棒だったら、安定感が多少失われるのだろう。

以前このブログで円襠について記事を書いたことがある。その記事でも触れたように、メスキータや眼鏡橋のような建築構造物は、アーチ型になっているから安定していて簡単には崩れにくい。そういえばエッフェル塔や東京タワーの下の部分もアーチ構造になっている。

我々太極拳愛好家も、下肢をアーチ型に保ち、上半身の頭、首、背骨などの保ち方を太極拳のセオリー通りに整えることで、両脚をグッと力いっぱい踏ん張らなくても、柔軟な状態のまま安定して地面と垂直に立ち、グラつかずに動作ができるようになる。

よく「太極拳をすればバランス感覚が養われる」とか「転びにくくなる」と言われるが、脚の状態を整え、根気強く太極拳動作の稽古を積んでいけば、柔軟に、自由自在に、下半身の関節や筋肉を柔らかく使うことが可能になってくる。

だから両足のつま先を正面に向け、下肢をアーチ型にし、内転筋にきちんと乗り、不自然なガニ股にならないようにして、重い体重を安定的に支えながら移動することを心がける。

ガウディの実験模型の糸に垂らした「重り」の部分は、太極拳で言えば「上半身」にあたる。先端にある重りをアーチ曲線の糸がバランスよく支えている構図は、太極拳の円襠を思わせる。
(※ネットで【ガウディ フニクラ画像】で検索すると実験模型でてきます)

かなり強引な例えになってしまったが、とにかく立ち姿勢のバランスは、太極拳を稽古する際も、普段の生活でも非常に重要である。

「体が硬いから、年だから無理」と軽い運動さえも避ければもっと悪化してしまう


普段どこかに痛みを抱えている人や、筋力が落ちた高齢の方などは、どうしても立つときに体のどこかをかばいながら立つことになるので、バランスが片寄ってしまう。

そういった場合は、根気よく、筋肉を少しずつストレッチなどでほぐしたり温めたり、関節を緩めて動きやすくする訓練を、決して無理のない程度に長期的に進めていく。体のどこかに酷い痛みを抱えている人は、自己判断せず、医師に相談しながら体の機能訓練をしていく。

「体が硬いから無理」、「年だから無理」と言って放置して何もしないでいると、ますます悪化しかねない。私がこれまでに出会った高齢の方の中には、長年運動をして来なかったという方もいて、人によっては体のあらゆる関節の可動域が狭くなっていらっしゃる。ご本人は、長い期間そのまま過ごしてしまっているので、「これが自分の体。こんなものだから仕方がない。」という意識のようだ。

でもそうではない。なぜなら私が知っている、太極拳を健康法として10年、20年と稽古している7080代の人達は、非常に柔軟な動きをしていらっしゃるからである。そのような方々は50代、60代のときに自分の健康に意識を向け、体に良い運動を常に生活の中に取り入れてきた人達だから、80歳を過ぎても体が柔らかくてしなやかなのである。

体力が低下している年配の方は過剰な負荷がかかる筋トレはやらなくていいから、まずは体をほぐす。関節や筋肉を緩めることを長期的にやっていかなければならないと思う。

世界遺産の建築物も、人間の体も、小さな工夫と努力を続ける事でより良いものになる


昔、私がサグラダファミリアを訪問したときは、まだ屋内フロアに足場が組まれていた。そしてその当時は、「完成までにあと
100年くらいかかるだろう」と言われていた。でも技術の進歩によって、あと数年で完成するとのこと。

100年かかると言われていたものが、ほんのあと数年で完成すると聞けば、「なんだ。案外、短期間でできるんだ」と勘違いしてしまいそうになるが、最初の着工時から完成までは百数十年の長きを要しているのである。

ヒヨッコ太極拳愛好家の私は、なかなか思うように上達しない自分の実力を過剰に嘆くことはせず、「まだまだこれから」と思いつつ自分を慰めながら、長期戦で稽古をしていくつもりである。

技術の粋と努力の積み重ねで、安定したものや立派なものが出来上がっていく。ローマは一日にしてならず。サグラダファミリアは百年にして成らず。太極拳の修練は数十年にして成らず。

つい太極拳とスケールの大きなものを比べてしまったが、
そもそも太極というワード自体が宇宙観を示す言葉なので良しとしよう。なにはさておき、どんなものでも、どんなことでも、長い時間をかけて少しずつ完成に近づき、本物になっていく。健康な体づくりや武術の鍛錬も同様である。

コメント

dalichoko さんの投稿…
ああ、なんとなくわかります。
なんでも強い力で対抗しようとすると折れやすいのでしょうか。
張り詰めると弱い。
柔軟なのがいいんでしょうかね?

話題は違うんですけど、経営者って大雑把な方が多いんですよ。
いいかげんといいますかね。あんまり神経が細かい方は経営者に向かないんでしょうね。
(=^・^=)
タイチーマルゲリータ さんの投稿…
dalichoko様
コメントありがとうございます(^^)

そうですね~、柔軟に構えている方が、次の動作に移りやすいですね!
テニスでも、レシーブ側の選手は関節を緩めてかまえ、
相手のサービスを待ってますね(^^)

経営者は・・
きっと大局を見失わないようにするために、
細かい点よりも、
大きく物事を捉えようとする傾向にあるのかなと思いますねー。
そこで大事なのは、右腕となる直属の部下・ブレーンになる者が
細かい点をチェックして、
その経営者をしっかり補佐できるか、でしょうかね。

どうぞ良い一日を(^^)
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