体内でたくさんの良いモノが出ている!

日々、健康法として太極拳を稽古しながら、ボチボチゆっくりペースではあるけれど、体のいろんな機能について少しずつ学んでいる。私は学者や医師ではないので、難しいことは解らない。でも、運動を習慣化している者として、そして他人様へ運動の指導をさせていただく立場にある者として、体の機能について最低限のことは知っておきたい。

ありたがたいことに、超高齢社会の日本では、中高年以上の健康管理に関する情報がそこかしこにあふれている。例えば、薬局などに置いてあるパンフレットや冊子類、それにテレビでも毎日のように健康番組が放送されており、“健康長寿”のためのヒントを知る機会は多い。

テレビの健康番組などでよく取り上げられる内容を大雑把に分けると、

●体に良い食材

●簡単にできるストレッチの方法

●何時ごろ、どんなものを食べ、何をすれば、健康増進の効果が出やすいか

こういった内容が紹介されることが多いようだ。

そんななかで私が気になっているのは、体の中で「多種多様な物質が出ている」ということ。「体のどこどこから〇〇という物質が出る」とか、「良い体内物質を分泌させるためには〇〇をした方が良い」といった話題を聞くことがある。

体内の気血の巡りが良好である状態が保たれれば、健康を維持するための各種ホルモン物質などが体のいろんなところから出てきて、それが自然治癒力を上げることに繋がる。

体内で出るホルモンなどの物質は、体の中のあらゆる場所で作られ、相互に関わり合いながら、我々の健康を維持している。頭の整理のために、気になっている物質をいくつかピックアップし、なるべく平易な言葉でまとめてみたいと思う。


<一酸化窒素(NO)>


これは過去に
NHKの健康番組で紹介されたことがあるので、ご存じの方が多いと思う。一酸化窒素(NO)は、血圧の安定や、血管を柔らかく健やかに保つという素晴らしい効果がある。このブログでも以前、『健身気功 五禽戯』を紹介した際、NOについて触れたことがある。NOについて触れたブログの過去記事

NO
を増やすのは簡単で、とにかく運動して筋肉に刺激を与えれば、血管内の特定の細胞からNOが放出されるしくみになっている。手をグーッと握ってパッと緩めたり、胴体部分をグネグネ動かしたり、運動してふくらはぎに刺激を与えるのも良い。

【血管老化の予防法】血管拡張物質「一酸化窒素」の働き | NHK健康チャンネル


<マイオカイン>


マイオカインは、筋肉から分泌されるホルモン物質。運動すれば、太腿やふくらはぎの大きな筋肉から多く出る。スクワット、ウォーキングなどで出やすくなる。スムーズに分泌できれば、認知症、糖尿病、動脈硬化などの予防に効果があるという。

運動不足にならないよう、長時間座りっぱなしの生活を避ける。中国武術の歩型「弓歩」や「馬歩」などは脚の筋肉を使うので、マイオカインを出すには良いと思う。体が弱い人や高齢の方は、無理してハードな筋トレをしなくてもいいので、とにかくウォーキングでも何でもいいから、まずは筋肉を動かすことが重要だと思う。


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BDNF
というのは脳の海馬などに存在する物質で、脳が活動するための栄養分になるタンパク質。常に活動してくれている脳に十分な栄養を供給するため、普段の食事で栄養バランスを考慮し、栄養価の高い食品を積極的に食べるように心がける。

た、食事からとる栄養だけではなく、運動も重要。適度な運動を生活に取り入れた方がBDNF
が分泌されやすいと言われている。中高年以上になれば特に、脳の機能が衰えないように、認知機能が低下しないように、運動や食事内容に配慮しなければならない。

<オキシトシン>


オキシトシンは、心を落ち着かせるのに役立つホルモンで脳の下垂体から分泌される。心地よいスキンシップがその分泌を促すという。赤ちゃんとママのスキンシップ、大人同士であれば、安心感のある相手(身内)や、他人なら気のおけない仲間に、肩をポンと触られたらホッとしたり、温かくて幸せな気持ちになる。プロのアロママッサージなども良いと思う。背中を優しくなでるとか、握手なんかも良い。

オキシトシン イメージ

しかし、今はこのご時世。コロナ禍では、めったなことで他人に触れることは許されない状態なので、感染予防をした上で、できる範囲で他人に触れるしかない。それから相手が異性である場合、気楽なスキンシップだと思っていても、相手はセクハラだと受け取ってしまうケースもあるので、これも要注意。

他人に触れるのが無理な場合、誰かと一緒に同じ空間で穏やかに過ごしたり、互いに優しくする気持ちを持ち、優しい言葉をかけ合うだけでもオキシトシンが出るそうだ。


<エンドルフィン>


ストレスや痛みへの耐性をつける脳内ホルモン。これも適度な運動や、栄養バランスの良い食事、それから呼吸法などによって分泌が促される。脳の働きを良くするので、記憶力や集中力の向上に繋がる。痛みを緩和させる効果があることから、俗に脳内麻薬なんていう言い方もある。

そういえば、ツボ押しや鍼治療によってエンドルフィンが分泌され、そのことで体の痛みが引く、つまりエンドルフィンの鎮痛作用が上手く効果をもたらすといわれる。私が知り得た限りでは、首の後ろの「大椎」のツボは、肩や腕の痛みの緩和、それから手の親指と人差し指の付け根辺りの「合谷」は、歯の痛みにも良いらしい。足裏「湧泉穴」のツボは、腰痛や足の痛みにも良いという。

ツボ押しや鍼灸の効果については科学的に解明されていないことが多いと聞くけれど、ヒトの神経が全身に張り巡らされていることを思えば、ツボ押しの結果、その刺激が神経を伝って様々なホルモン物質の生成に関与していても不思議ではない。


<セロトニン>


精神を安定させ、心の平静を保つのために重要な物質。セロトニンの多くは腸内に存在していて、それとは別のセロトニンの元になる物質が、形を変化させながら脳内のセロトニンとなる。一定量のセロトニンが保たれることで、ほかの神経伝達物質が過剰分泌されるのを防ぎ、複数の物質がバランス良く脳内で作用するようになる。

セロトニンは、睡眠を促すメラトニンの元となる成分なので、セロトニンが不足すると睡眠の質が下がってしまう。セロトニンの正常な分泌は鬱病の予防になる。

セロトニンを増やすには、食事でのタンパク質摂取、朝日を浴びる、呼吸法の実践、それからリズム運動などが有効。リズム運動といえば、中国古来の健康法「スワイショウ」。家で簡単にできる運動
なので、コロナ禍でステイホームの時期にもおすすめ。

セロトニン イメージ

ところで健康法としてゆっくりと太極拳の動作をすることは、リラックス効果をもたらし、副交感神経が優位になる。イライラが薄れ、血圧も安定する。深い呼吸とともに、一定の心地よいリズムで太極拳の動作をすることは、セロトニンの分泌を促すとても良い方法だと思う。

<ドーパミン>


人が活発に活動するための物質で、中枢神経に存在する。勉強を頑張るときやハッピーなことがあるとドーパミンが分泌される。意欲的なとき、興奮、快楽を感じているとき、達成感が得られたときに多く出るもの。スポーツをする場合、特にトップアスリートのように高度な技を成し遂げている人達は、ドーパミンが出ることで過酷なトレーニングをこなし、頑張りがきく。

ドーパミン イメージ

ただしドーパミンの分泌は、過剰になるとアルコールやギャンブル、薬物の依存症に繋がるケースがあるので、過度に興奮が続く状態は良くない。

ドーパミンを出すためには、たんぱく質をしっかりとる、それからウォーキングなどの運動も良い。


<アドレナリン ノルアドレナリン>


~ アドレナリン ~


運動、仕事、勉強などを行うとき、やる気を奮い起こす状態のときにアドレナリンが出る。主に副腎髄質から出る物質。アドレナリンの分泌によって脳は適度な緊張感を持ち、覚醒した状態を保ちながら活動できる。だから、受験生やアスリート、仕事を頑張る人にとって、アドレナリンは大切な物質といえる。

このように適度な緊張状態にあるとき、心拍数は上がっているので、体温が上がって代謝が促される。また、体が緊張状態を維持し、危機の状況に対応しようと脳も働くので痛みに対する鎮静効果もある。

ただし、緊張状態や恐怖、不安状態というのは血圧上昇をもたらすので、長くアドレナリンの過剰分泌が続いてしまう状態は、高血圧や慢性疲労など体に悪影響を及ぼす。


アドレナリンは心臓の収縮に大いに影響するので、過剰に分泌された場合、頭に血がのぼる感覚、いわゆるキレやすさに繋がったり、パニック発作が出るケースもある。逆に不足すると、気力が萎え、鬱状態に繋がることもある。


~ ノルアドレナリン ~


ノルアドレナリンは、副腎髄質やその他の器官から放出される。交感神経が優位になるとき、つまり脳や体を興奮させたり、緊張感を増す際に出ている物質。集中力を増したときや、恐怖、怒りを感じたときなどに、体がストレスへの対応の準備をする意味で活発に分泌される。精神的な興奮があったときなどに、体のあらゆる部分の平滑筋に影響を及ぼし、血管を収縮させ、血圧が上昇する。アドレナリンやエンドルフィンと同様、鎮静効果にも関係する。

ノルアドレナリン イメージ

ノルアドレナリンは、適正な分泌量であれば集中力を高め、記憶力が増す助けとなる。しかし分泌が過剰になり悪く作用すれば、緊張、不安が高まり、イライラや体の震えが来たり、パニック発作などになってしまう。

こうやってみていくと、「アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン」の3つは、なんだか似たような作用、役割を持っていて紛らわしいが、こういった複数の物質の作用が絡み合って、私達の精神状態を興奮させたり、落ち着かせたり、気分を上げたり、下げたりしながら、体の機能をも調節しているのである。

生成の手順としては、ドーパミンからノルアドレナリンが作られ、ノルアドレナリンからアドレナリンが作られる。アドレナリンは心臓に働きかけるので心拍数を上昇させ、ノルアドレナリンは血管収縮により血圧を上昇させる。だからストレスが強いときなど、過剰な興奮状態に長期間おちいってしまうと、体調に深刻なストレス性の悪影響を及ぼしてしまう。


<セロトニンの重要な役割>


様々な物質の調節機能が、バランスよく上手く運んでいれば、心身の健康は保たれやすい。でもバランスが崩れ、感情の抑制が効かない状態が続くと、体調面に悪影響を及ぼしてしまう。

不安やストレスが長引くと精神的にまいってしまう。このような状態が続いた場合、ノルアドレナリンが不足し、無気力になる。セロトニンとノルアドレナリンの分泌量が少な過ぎると、ひどい場合は鬱病になってしまう。ノルアドレナリンとセロトニンは、特に両者がバランス良く分泌されないといけない。まさに陰陽のバランスである。

セロトニンは、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を制御してくれる。結局、人間が健やかに生きていく為には、いろんな物質がバランスよく存在してくれないと困るのである。


<コルチゾール>


副腎皮質から分泌されるこのコルチゾールというホルモンに関しては、「体に“悪さ”をする物質」のような扱いでテレビの健康番組で紹介されたのを観たことがある。ストレスを感じたときに出る「ストレスホルモン」とも言われている。

悪者といっても、あくまでも人体に必要なものであり、脂肪の分解、たんぱく質の代謝など、多様な働きをしている。


コルチゾール イメージ

良くないケースというのは、他のホルモンと同様、過剰に分泌されること。強いストレスが続いたときなどに、コルチゾールが過剰に分泌されると、脳の働きが鈍ったり、不眠、鬱などを引き起こしかねない。ストレスは万病の元。運動などでストレス耐性を増して、コルチゾールの分泌量を適量にしたい。

<オステオカルシン>


骨は、皮膚などと同様、耐えずターンオーバーを繰り返している。5年ほどで骨の細胞は生まれ変わるそうだ。中高年以上になると、老年期に向けて骨粗鬆症にならないように気を付けなければならない。

そこで運動が重要になってくる。運動時、骨に振動を与えたり負荷をかけることで、細胞の入れ替わりが促進される。運動することが骨の新陳代謝を高めるのである。逆に、寝たきりの状態にある人や、無重力の環境下で骨への重力抵抗が働きにくい宇宙飛行士は、骨密度が急激に低下するという。

骨芽細胞 オステオカルシン イメージ
運動時、骨に負荷がかかっている状態のときに、オステオカルシンが大いに分泌される。オステオカルシンも、過去にNHKの健康番組で取り上げられたことがあるので、覚えていらっしゃる方も多いと思う。

オステオカルシンは、俗に「骨ホルモン」とか「若返りホルモン」などと言われている。骨の骨芽細胞から分泌され、その働きは多岐に及ぶ。臓器の働きを整えたり、血糖値の調整、筋力強化、脳の認知機能の低下を防ぐ、美肌効果、免疫力アップなどの効果をもたらすという、とにかくありがたい物質。つまり骨は、ただ体を支えているだけではなく、体調管理も行ってくれる。

過去のNHKの健康番組で、オステオカルシンを出すには「かかとおとし」の運動が良いと紹介されたことがある。

かかとおとしの運動といえば、中国古来の健康法『八段錦』で、すでに大昔から存在していた。八段錦を誰もがやり易いようにしてある『健身気功 八段錦』をここで紹介したい。八段錦は8つの動作から成るが、ここで紹介するのは【背后七顚百病消(ベイホウチーディエンバイビンシァオ)】

中国国家体育定八段,八段全国冠军张琦完整口令加12 - YouTube

(この動画の10:50部分に、背后七顚百病消の動きあり)

この【背后七顚百病消(ベイホウチーディエンバイビンシァオ)】は、疲労を回復し、便秘や痔の予防になると言われている。1日に数回、かかとを床にストン、ストン、と心地よく落とすだけで、オステオカルシンを増やすことができる。

※ただし、骨粗鬆症が悪化している方や、足腰が極端に弱っていらっしゃる御高齢の方は、決して無理をしないで下さい。

骨を強くするには、一般的にカルシウムやビタミンDをとり、日光に当たることが重要だと知られているけれど、運動もとにかく大切で、かかとをストン、ストンとやっていけば、オステオカルシンの分泌が促進されるのである。


・・・・・

自分なりに、いろいろなホルモン物質などについて、内容をかみ砕いて説明しながら改めて感じたことがある。それは、「心地よい運動は、いい物質を出す!」ということ。

結局は、体の中の機能を正常に保つには、

・適度な運動(筋肉や体を痛めるほどの過酷な運動は控える)

・栄養のある食事(抗酸化作用のある食材やたんぱく質をしっかりとる)

・質の良い睡眠(できれば朝日を浴びて体内時計を整える生活を心がける)

この3点に尽きる。

高齢になればなるほど代謝力が落ち、老いと共に健康維持のための体内の調節機能も低下してしまうので、普段から適度に運動しながら、積極的に良い環境に身を置くことが大切だと思う。

中医学では、今回このブログ記事で紹介した物質の名前など誰も知らなかった遥か昔に、
体内を構成する全てのものが相互に関連し合いながら循環することで病気になりにくい体をつくり代謝異常が起こらないようにすることが病を顕在化させにくくする、つまり自然治癒力をあげるのだと悟っていた。

生活の中に運動を取り入れ、巡りの良い体を維持すれば、筋肉が動き、脳もリラックスすることで、良い物質が出やすくなる。そのことを、昔の人は経験的に分かっていたのだろう。

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