会陰から百会までをまっすぐ立てて動きたい
何度も繰り返し稽古を重ね、徐々に上達する
どんな稽古事でも、何度も何度もトライして上手くいかなかったり、失敗を重ねながら、徐々に上手くなっていく。太極拳も、何年もかけてその特有の姿勢や動作を身につけていくもの。
習得に長い期間がかかるのは当たり前なので、あまり神経質にならず、教室にいるときは夢中になってひたすら稽古すればいい。そうこうしているうちに、柔軟な動きやバランス感覚が身についていき、いつしか心にも余裕が生まれ、心身が穏やかになっていく。
大抵の人は、太極拳を稽古し始めてから、独特の姿勢の維持の仕方に慣れるまで1~2年、いや長ければもっとかかる人も沢山いらっしゃる。私自身も、柔らかくバランスを取りながら動けるようになるまで、稽古開始から数年間を要した。もちろん今でも完璧とは言えない。
稽古を始めて間もない人の場合、姿勢の要領を1回聞いたとしても、人によっては翌週にはもう忘れていて、次の稽古では再びバランスが崩れた状態で立ってしまう。あるいは人によっては、翌週どころか、たった今伝えて修正したことが、もう次の瞬間には元の状態に戻ってしまう人もいらっしゃる。
でも、それで良いのである。どんなに器用な人でも、姿勢の維持の仕方における癖はなかなか取れない。その上、過去にやったことがない独特の姿勢や動きなど、一瞬で身につくはずがない。だから慣れるのに長い時間かかることは、恥ずかしいことでも何でもない。みんなそうしながら練習を重ねていき、上達していくのである。
自分では気がつきにくい姿勢のゆがみ
姿勢というのは、自分では気をつけているつもりでも、軽く体勢が斜めになっていたり、少しばかり顎が前に出ていたりすることがある。特に御年配の方は、筋力が弱っていたり、硬くなっていたり、過去の病歴や骨粗鬆症などの影響で姿勢が歪んでしまっている人もいらっしゃる。病歴がない人でも、人それぞれ姿勢の保ち方の癖がある。頭の縦軸が傾いて顎を突き出す癖がある人とか、どうしても猫背気味になってしまう人、等々。
太極拳の動作に慣れていない人の場合、自分では「力んでいない、力抜いてる、まっすぐ立てている。」と思っていても、案外、ちょっとした姿勢の癖が出たり、肩に力が入っていたりする。高齢の方になると、長年の姿勢の癖や、運動不足による筋肉の硬直化は、なかなかすぐには取れないケースが多い。
自分では「体の中心軸は歪んでない。」と思い込んでいる人も、重心移動があるたびに骨盤や胴体がグラグラと傾いてしまうとか、腕がほんの少し動くだけで肩に無駄な力が入り、左右の均衡が崩れ、バランスを崩してしまうことがある。
大きな鏡のあるスタジオで稽古できるときは、自分の姿勢を横から鏡に映して、頭~背骨~腰~足先までのバランスをチェックしてもらう。
頭と胴体というのは、体の中でも非常に重たい部分。頭は(個人差はあるけれど)だいたい5キロ程度の重さがあると言われているし、胴体には内臓、水分が大量に詰まっている。だから、股から頭のてっぺんまでの縦軸がブレてしまうと、体全体のバランスが大きく崩れがちになる。
下半身の筋力が弱りつつある高齢の方だと、重たい頭と胴体を支えられなくなり、動作中にヨロッとよろけてしまう。
太極拳を20年、30年、それ以上と、長い年月続けている先輩方は、一般的に高齢者といわれる年齢になっても姿勢が良い。いつも颯爽としていらっしゃる。
これは、年をとってから急に頑張ったからではない。長い年月の太極拳の稽古を通じて、姿勢を保つ努力を長期に渡って行ってきた結果なのである。
会陰から百会まで、意識してまっすぐ立てる
初心者の方が陥りがちな状態はいろいろある。習いたての頃は、特に肩に過剰な力が入りやすい。それから両手足の動きがぎこちなく硬い。そして体の軸が、動作中に傾いてしまう。
型や套路を行う際に、体幹部分、特に臍下の丹田部分に意識をおいて動いていく。下半身は、リラックスしていながらもドッシリ立てている状態。上半身は、下半身の上に柔らかく乗っているので無駄な力は不要である。そして中心軸はブレないように保つ。
股から上、つまり上半身においては、『会陰~胴体~百会のツボに至るまで』を、なるべく床と垂直にまっすぐ立てて柔らかく動いていく。百会は頭頂部のツボ。そして会陰は、性器と肛門の中間部分。
会陰は軽く引きあげるイメージで、だらしなくダレさせない。会陰から百会までの縦ラインには、パスタのアルデンテ状態、または竹串に刺した団子のように「芯」が通っている。その芯となっている中心軸を斜めに傾けない。
この姿勢の立て方は、太極拳の動作に慣れているベテランの人にとっては至極当たり前のことで、別に難しくもないと思えるもの。
しかし、運動経験が過去にほとんど無かった高齢の方や、太極拳とは無縁だった人にとって、会陰から百会までの軸を立てたまま、スーッと柔らかく移動するのは案外難しい。
大まかに言えば3つの大切なポイントがある
私が太極拳を健康法として指導させていただく際に、教室の皆様へずっと繰り返し、繰り返し、クドいほど言ってきた動作の要領が3つある。
それは、
「脚(またぐら)をアーチ型に」
「肩の力を抜いて」
「胴体部分は立て、なるべく床と垂直に保つ」
という3つのこと。この3つの言い回しは、何百回も口にしてきた。
なぜ何百回もクドクド言い続けるのか。それは太極拳の姿勢を保つ上で、シンプルに最も重要なポイントだと思っているから。そして、これらのポイントが短期間では身に付かないから。健康目的で体操がわりに太極拳をやっている人も、武術的に太極拳を鍛錬している人も、この3点の習得は必須である。
「脚(またぐら)をアーチ型に」というのは、円襠を意識する。
(以前書いた円襠に関する記事はコチラ)
「肩の力を抜いて」。これは「沈肩垂肘」を実現する。つまりは肩も肘も無駄な力を抜き、緩め、自然に垂らす感覚を持つ。
「胴体部分は立て、なるべく床と垂直に保つ」、つまり「立身中正」を意識する。立身中正では、無駄に力むことは必要ないけれど、体の中心軸はシャン!と立っている。そうはいっても、もし動きの途中でバランスを崩して傾いてしまったら、下半身の緩みと胸まわりや背骨のしなりを上手く利用しながら、顎を引き、百会を真上に向けて体勢を立て直す。
太極拳の理論を学んでいると、難しい専門的な言葉がたくさん出てくる。太極拳はいわずと知れた中国ルーツのものだから、学ぶべき理論の中に漢字の熟語がいっぱいある。それを教室で、習いに来て下さる方に紹介し、説明していくことは大切なことである。
しかし、難しい熟語の言葉の数々を単に提示しただけでは、習っている方々の胸には響かない。熟語を示しただけでは、「分かるようで分からない。実際に体で示すのは難しい。」という印象を与えるだけになってしまう。
結局は、言葉の定義を説明したのちに、「だから実際にはどう体を動かせばいいのか」、「具体的には何に気を付ければいいのか」、この辺のコツまで指導者がかみ砕いて、要領を上手く伝えていくことが重要だと思う。
そうしていくなかで、習う側の人達も、受けた説明内容への理解を深めていき、自分の体の動きとして、その要領をモノにできるよう長い時間をかけて鍛錬していく。
コメント
太極拳の姿勢でとても興味深いのは含胸抜背があると思います。
若い頃に武道やダンスをされていた方が年配になって太極拳に移行される方いらっしゃいますが,ソシアルダンスをしっかりされた方はこの「含胸抜背」が下手というか胸を張りすぎてしまって数年のうちには辞めていかれる方が多いように思いました。
もちろん立身中正が大切なのですが,それでいて力が入りすぎないことをよく師範からはアドバイスされてます。それじゃ また(^▽^)/
Ym様のおっしゃる通り、含胸抜背も動く上で大切な要素ですよね。
確かに、他のスポーツを長くやっていて癖がついている方はいらっしゃいますね。
そのスポーツ独自の足の運び方や肩の張り方があった場合、
太極拳のときに「自然に緩める」ということが最初は難しいように思います。
繰り返し稽古して、体に緩む感覚を覚えさせていくのが大事ですよね(^-^)
太極拳は無駄なものをそぎ落とした動きだけど、
舞踊なんかは逆に装飾ありきという面がありますよね、いかに綺麗に魅せるかという。
コメントを、どうもありがとうございました!!