象の足裏は重要な感覚器

両方の手足をセンサーとして利用する


太極拳では、手が重要な感覚器、センサーの役割を担っている。一連の動き、套路を行う際は、ゆっくり動きながら、掌に空気抵抗を感じるように動くと感覚が研ぎ澄まされる。風が吹いていない無風の場所でも、掌に風を常に感じられるような感覚を養う。

推手のように相手と組んで鍛錬をしていく場合には、自分の手は、相手の出方や呼吸、微妙な敵の動きを読み取るための重要なセンサーとして機能する。相手との接触点である手が、相手の呼吸や動き方を微細に捉えることで、これを瞬時に自分の脳に伝え、得た情報を自分の動きに反映させる。

もちろん視覚的に相手の情報をみて取ることも重要だけれど、視覚情報とともに、手の感覚も鋭敏に保ちながら、双方が連携、協調して動くように稽古する。


私自身は非常に未熟であり、浅はかな読みしかできないので、手のセンサー機能を十分に活かせる技術は、残念ながら持っていない。そんな足踏み状態を抜け出すには、日々の稽古を継続し、五感を研ぎ澄ます鍛錬をするしかない。



ところで、NHKの番組「地球ドラマチック」の3月中旬の放送分をみた。


その番組内容によると、象の足裏は、感覚器としての機能が非常に高いそうだ。象の足裏は、周囲の状況、危険を察知するセンサーの役割をしており、たとえば敵のハンターが近づいてくる音を、地面から足裏で感じ取り、仲間と一緒に逃げるらしい。(それから象は、地面から音の振動を骨伝導で感じ取り、その情報が内耳までいくとか。)

象 足 イメージ

太極拳でも、手と同様に、足裏も上手くセンサーとして象のように使えれば、尚のこと素晴らしい動きに繋がる。相手と組んで対錬を行う場合なら、自分の足裏が相手の動き、重み、地面へのかすかな振動を読み取って、これを自分の動きに活かすことができれば理想だと思う。1人で型を練習して動くときには、自分の体のみならず、周りの空気感までも把握できる心の余裕が欲しい。

触って何かを確認する意味を考える


人間は、便利な道具、便利な機械・機器を大量に生み出してきた。高性能な精密機器、コンピュータなどを利用すれば、別に人間の手足の感覚が鋭敏でなくとも、今は大抵のことを電子機器が判断してくれる。

ウェアラブル端末、つまり電子機器を常時身につけ、自分の体調、呼吸までも電子機器が管理してくれる時代になっている。

野生の動物は、体のいろいろな感覚を最大限に利用していく。それに対し、人間は「なんでもスマホなんかが教えてくれますヨ」という時代。果たしてこれが本当に幸せなのか、恵まれた時代なのか、私には分からない。

人肌の感触よりも電子機器の処理が重視されるシーンは、色々な場面でみかける。病院にかかれば、(東洋医学の専門医以外なら)患者の顔をほとんどみないで、PCの画面にヒアリングで得た症状などを黙々と書き込んで終わりというケースもあり得る。

私は、高齢の親族の病院受診に付き添った経験が何度かある。PCへの入力は勿論、医師の重要な仕事だと思うけれど、医師による触診や、患者の眼や肌の状態を実際に目で見て確認する行為はかなり軽視されているような印象を受けた。

電子カルテの管理に間違いは許されないし、それに先生方も忙しいんだろうなぁと思うと文句も言えない。おまけに今はコロナ禍となり、ますます触れて確認するという行為は減っていくのかもしれない。

とにかく現代は、あらゆるものをヒトの代わりに電子機器が感じ取ってくれる。多様なデジタル情報を得てそれらを上手く利用すれば、人間は、自分の手足や脳の微細な感覚、判断力が衰えても、機械の力で何とか生きていけるかもしれない。

しかし、機械・機器に頼りっぱなしの状態が続くと、ヒトの視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、平衡感覚(バランス感覚)等、ますます鈍っていくのではないだろうか。

私は、太極拳に出会ったことで強く思う。鋭敏な感覚を養うことこそが生きている証であり、人生の醍醐味だと感じる。私のような凡人でも、太極拳を静寂の中で稽古しているとき、五感が研ぎ澄まされる感覚に陥ることがある。

様々なことを感じ取る感覚を鈍らせないようにしたい


感覚を養うには、何かを継続することが大切だと思う。野球のピッチャーならば、ピッチング練習を重ねることによって、手の感覚がボールのコントロール能力を助ける。料理人の方は、材料を手づかみ、触ることによって、分量や温度がすぐに感覚で分かるようになる。

金融機関や店舗で現金をいつも取り扱う人は、札束の枚数が手で触れた感覚で大雑把でも大体分かるようになる(キャッシュレス社会ではこの感覚も不要になっていくのかも・・)。町工場や伝統工芸の世界などは、感覚を研ぎ澄ませて仕事をする事例の最たる分野だろう。


便利すぎる世の中になっても、せめて1人1人が、自分の好きなことや得意分野に特化して、それを実行するとき鋭敏な感覚を求めていけば、生きることはどんどん楽しくなり、生き物としてこの世に存在している実感が得られる。

ヒトは老化によって、あらゆる感覚が若い頃より鈍ると言われる。皮膚感覚もそう。若者よりも高齢者の方が熱中症になりやすい。その主な原因は、筋肉量の減少で体の保水力が低下していることにプラスして、皮膚が気温の高低を若い頃よりも感じにくく鈍感になっていること。

老化による感覚の鈍化を防止するには、しっかりと体を使う訓練を続けること。感覚を養う訓練を続け、筋力も極力落とさない。そのためには運動やスポーツ、仕事、趣味などは大きな役割を果たすと思う。

コメント

Lily6042 さんの投稿…
こんにちは。
暖かく 良い陽気です。
そちらは 如何?

りりー 
タイチーマルゲリータ さんの投稿…
りりー様

黄砂が飛ぶ季節、
桜もそろそろ散りますね🌺

コメントをありがとうございます。
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