コロナ禍。1年以上が経過して思うこと。
マスクして稽古するのは慣れたけれど
私は、稽古事を自分が習う立場になる時もあれば、教える立場になるケースもある。昨年の春頃はコロナ禍で、習う方も教える方も長期間、稽古できない自粛期間があった。昨年の夏以降は、みんなで万全の感染対策をしながら稽古を再開し、今に至っている。幸いなことに、身近な関係者に感染者は1人も出ていない。
私が、中国古来の健康法や、太極拳の動作などを指導させていただく場所では、当然ながら感染対策として、休憩時にも距離をあけて座る。マスクは、参加者全員がずっとつけたままで稽古する。マスクを外すのは、水分補給をする一瞬のみ。
運動内容はゆっくりした動きばかりで、大量に汗が噴き出す激しい運動はしない。だからマスクをしたままでも息があがって苦しくなるようなことはない。
ただ、自分が教える側に立つということは、自分も動いてみせながら、同時にしゃべって説明を加え、さらに皆様の動きをしっかり見ていくというように、複数のことを同時進行でやらなければならない。
その場合、マスクをしていることに息苦しさを感じることがある。でもこれは、今のご時世、どんな分野のどんな世界の人も状況は同じで、感染対策が何よりも優先されるので、不満を言っている場合じゃないことは重々承知である。
教室の皆様の表情がわかりにくい
太極拳の稽古をするとき、新しく始めたばかりの初心者の方は当然、慣れない姿勢と動きで戸惑いがちである。もし指導する側が、初心者の方の許容量を超えていっぺんに沢山のことを要求してしまうと、その人は緊張してリラックスできなくなる。そうなると特に御年配の方などは、「自分は向いてないのかな?」とか、「細かい動作の要領できるかな、大丈夫かな。」と不安になり、尻込みしてしまう。
気持ちよく、柔らかく動いていただけるように、稽古時の説明の言い回しや、姿勢を保つことへの指摘の仕方を工夫し、稽古にスムーズに臨んでいただけるよう全てを調整するのも、指導者側の大切な役割である。
私が教室で気をつけているのは、習いに来られる皆様が、過剰に焦ったり、混乱しないよう、理屈を説明する際に、お一人お一人の目や顔の表情を見ながら稽古を進める。
皆様の表情をみれば、「この人は、今ちょっと戸惑っていらっしゃるな」とか、「この人は今、すごくイキイキと集中していて心から稽古を楽しんでいらっしゃるな」というのが肌で感じられる。
ところが今とても残念なのは、全員マスク着用で稽古するので、コロナ禍以前に比べ、皆様の微妙な表情までは分かりづらい。
もちろんマスクをつけていても、目の表情は見て取れる。でも口元はさっぱり見えないので、本当にその人が心からリラックスして動けているか、多少緊張感があるのか、そういうことが読み取りづらい。
透明のフェイスシールドをみんなで付ければ、お互いの表情が見えて良いのかもしれない。でも、フェイスシールドはマスクよりも効果が低いそうなので、ご高齢の愛好者もいらっしゃる太極拳の教室では避けた方が良いのかなと思う。
稽古をすでに何年か継続している人は、割とざっくばらんに自分から確認したいことをどんどん質問して下さる。でも初心者の方は、まだ教室や仲間の雰囲気に慣れておらず、内気な方は最初は遠慮がちになってしまう。
そもそも、習い始めたばかりの段階の人は、何を質問すればいいのかポイントが絞られていないという事もある。だからそんな時に、その人の不安を取り除くためには、指導する側から積極的にお声かけしなければならない。
触れるのも控えなければならない
太極拳の姿勢や動きをつくる場合、要領を言葉だけで伝えるよりも、皆様の背中や肩、腕などに実際に触れて姿勢を調整したほうが、断然、整いやすい。目でみてもらう見取り稽古をするだけでは、完全に姿勢を整えることが上手くいかない方もいらっしゃる。
人によっては、目で見たり、耳で説明を聞いただけではなかなか無駄な力が抜けなかったり、ご本人も気がつかない姿勢の歪み、ブレが取れない事だってある。特に、御年配の方の中には、骨粗鬆症で元から姿勢に歪みが生じている方もいらっしゃるので、そういった方がどこまで姿勢を調整できるかという事も考えていかなければならない。
だから見取り稽古オンリーで姿勢を整えてもらうよりも、体に触れて姿勢を微調整していくことが有効である。
それから習いに来る年配者の中には難聴気味の人もいらっしゃるので、そういう方に対しても、こちらが背中や肩などに触れ、体のこの辺に力が入ってますよと肌で感じていただくことが、姿勢を整えていただく有効な手段となる。
でも今はコロナ禍で、ソーシャルディスタンスを取る必要があるので、むやみに人に触るのは憚られる。
私が出入りしているカルチャーセンターでは、床に、“このくらい間隔をあけて立って下さい”という目安となる印(テープ)が貼ってある。実際に套路などで動いていく場合、そのテープ上の同じ場所にずっとまっすぐ突っ立っている訳にはいかないので、とにかく換気をして、人と人との距離をキープしながら稽古する。カルチャーセンターやスポーツクラブは、1人でも感染者が出ると一定期間、営業できなくなってしまうので死活問題になる。だから、ここまで徹底するのはある意味、致し方ないことだと思う。
ところで「触る」ということの利点について、以前このブログ記事で紹介したことがある。他者から優しく触れられると、愛情ホルモン「オキシトシン」が分泌される。コロナ禍だと、オキシトシンを出す良さよりも、人に触らないという感染防止の方が重要なので、とにかくソーシャルディタンスをひたすら意識しながら稽古を継続するしかない。
健康法としての太極拳の愛好者には、70代以上の高齢者の方が結構いらっしゃる。もっと下の世代の愛好者の場合は、その親御さんがかなり高齢で御健在のケースが多いので、みんながなるべく普通に家族と行き来できる状態でいるためには、太極拳教室で感染者を出すわけにはいかない。
世の中がこういう状態である以上は、とにかく感染リスクを極力減らすよう、注意を怠らないようにやっていくしかない。
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