継続は力なり。繰り返すことの大切さ

地道な努力が、数年経ってやっと実を結び始める

太極拳は、いわゆる馬鹿ヂカラを出さず、筋力に頼らずに動くので、マッチョな人が上手いわけではなく、いかに力を抜いてバランスよく動き続けるかが重要である。元から運動神経が抜群に良く、自信満々な人が上手くなるとは限らない。

たとえ不器用でも、ただひたすら地道に稽古を続けていく人だけが上達する。この上達の道筋は、書道なんかに似ている。稽古を開始して、すぐ上手くなるわけではない。目に見えて自分の上達がハッキリ分かることもない。

稽古を続けるなかで、あまりにも歩みが遅いように感じるので、途中で「向いてないのかな」とやりきれない気持ちになる日だってある。

そんな日々が続くのだけれど、数年経つと、自分でも不思議なくらい、いつのまにか最初の自分とは全く違うレベルに成長している。地道な努力が、数年経ってやっと実を結び始める。

もちろん、当然それで終わりではなく、そこから修行がまだまだ延々と続く。先は長い。

太極拳の動きの様々な要領を常に意識しながら、何年もかけて動作を何十回も、何百回も、何千回もやっていく。

同じ動作を繰り返していくと、最初はぎこちなかったのに楽に脱力して動ける瞬間が訪れたり、１年前には困難だったことが悠々と心地よくできるようになるなど、同じことを繰り返すからこそ、気づく瞬間が出てくる。

毎回の稽古で、動きを繊細に微調整していく

ここで重要なのは、指導者が手直しをあまりしない人だと、指導される側の人は、自分勝手な思い込みで覚えてしまったり、妙な姿勢のまま動いてしまい、悪い癖がついてしまう事がある。

基礎的なものが身に付くまで、しっかりと細かい動きを修正していかなければならない。

とにかく嫌になるくらい何度も何度も動きを微調整しながら、ひたすら稽古を繰り返す。

おそらく、すぐに結果を出したい人や、地道で地味な努力ができない人は、途中で投げ出してしまうだろう。

陸上のようにタイムが出たり、バスケットボールのように何点という得点が出ないので、太極拳動作の上達の度合いは、感覚として分かりづらい。自分の成長が実感しづらいため、投げ出したくなる人が出てくるのも無理はない。

それくらい正しい姿勢や動作を体に沁み込ませるのには時間がかかるし、成長の道のりは長く、遠い。

気をつけなければならないポイントも多く、はっきりいって面倒臭いほど学ぶべき理論が多いので、本気で学びたいと思えば、好きじゃないと続かない。

手っ取り早く何かを簡単に成したい人は、自分は太極拳には向いていないと感じるだろう。でも実際は、向き不向きなんてものは無い。きちんと練習を積みさえすれば、みんな上達する。

太極拳の背景には、中国の古代思想に寄る哲学があり、その世界を知ることで面白さは増す。そんな面白さや、動きの心地よさを知れば、楽しくなって稽古を長く継続することができる。

インプット 〜 手直し 〜 アウトプットの流れ

私は、多くのご年配の方々と一緒に健康法として太極拳を稽古する機会があり、その際に思うことがある。初めの頃に体が傾いたり、バランスが取れず頻繁にグラついていた人も、年数が経つとビックリするほど動きが滑らかになってくる。

不器用な人であっても、なるべく休まず稽古に参加し、ずっと真面目に頑張ってきた人は、数年経つと、最初の頃とは見違えるほど素晴らしいバランスで動けるようになっていらっしゃる。

私が指導する側に立つ教室では、例えば、ある人の動きが「近頃ずいぶん良くなられた」と思えば、それをご本人にできるだけ伝えるようにしている。地道に取り組んできた人の成長は、明らかにご本人の努力の積み重ねによって得られた成果である。

指導する側が、確実に良くなっているということを伝えないと、ご本人は自分の成長に気づきにくい。それに、指導させていただく立場の人間が声をかけることで、少しでも励みになればと思う。


稽古を継続する上での流れとして、


・はじめは説明を聞き、実際に動作を真似てやってみる
　（インプット）


・自分だけで練習してみる（自主練）


・指導者に修正箇所を指摘してもらい、動きを丁寧に手直し


・自ら修正箇所に気をつけながら、また自主練


・自分の動きを再確認しながら、教室でみんなと一緒にしっかり動く
　（アウトプット）


このような流れを、型ごとに繰り返し、ひたすら続ける。


力み過ぎず、肩の力を抜き、この一連の流れを何度も繰り返し続けることが、とにかく重要だと思う。

面倒臭くても、地道な努力で日々の鍛錬を続けたら、そのあとには必ず驚くほど心地よい体性感覚が待っている。だから最初の段階であきらめずに、踏ん張って続ければいい。