「ニュートンのゆりかご」のようにチカラが伝わっていく

前回記事で「水飲み鳥」のことを取り上げた。置物みたいなモノにも、太極拳の動きとの共通点が見出せるわけで、自分なりに興味深いと思うところを書いた。

今回は、置物シリーズ(?)第2弾。「ニュートンのゆりかご」について触れたい。

ニュートンのゆりかごは、物理的に力の伝わり方の法則を検証するための装置である一方、インテリアとしても利用されており、水飲み鳥と同様、けっこう昔からあるモノ。

「ニュートンのゆりかご」では、最初に端からポン!と加えられたチカラが、それぞれの球の中を直線的に通過していき、最後に反対側の端の球が弾かれる構造になっている。

もし左側の1個の球をポン!とその隣の球に当てれば、その1個分のチカラが次々と右方向へ、隣の球 → その隣の球 → そのまた隣の球へと、次々と連鎖して伝わり、最終的に右端の1個が弾かれる。

弾かれた右端の1個が元の位置にポン!と戻って隣の球に
当たれば、今度は左方向へ同様の流れが起こる。








もし最初に2個分の球を当てれば、2個分のチカラが次々と伝わっていき、反対側の端の2つの球が弾かれる。与えられた分のチカラが、結果的に反対側の端っこへ伝わる仕組み。







参照リンク:Wikipedia~ニュートンのゆりかごについて~



定めた方向へ直線的にチカラを放つイメージ


このような「ニュートンのゆりかご」のチカラの伝わり方は、太極拳の勁力の伝わり方に似ている。

大量のチカラを一気に爆発的に四方八方に分散して放出するのではなく、「一筋のチカラが、体の中をジワジワと伝って外に現れ出る」という現象を、太極拳動作によって導く。

1人で動くときも、そして相手と組む場合でも、滅茶苦茶に馬鹿力を拡散して放出しない。むやみに暴れまくって前進せず、内勁を使う。つまり、体内でうごめいている気のエネルギーが体の深部を伝わりながら集約され、そのチカラを自分が放つとき、定めた方向へ直線的に放つ。

チカラが体内の神経を伝って(経絡を伝って)、じわじわと移りながら外へと向かうとき、自分の腕力だけで相手を力強く押したりせず、相手の体内に自分のチカラを移すようなイメージで動く。

決して、特定の筋肉にガチガチにチカラを入れて押しまくったりしない。もし方向を定めず、滅茶苦茶に暴れてあちこちへ分散してチカラを放ったら、散らばった威力しか出せず、結果、攻撃力は弱まる。

1人で動いているときも、自分のチカラがどんなふうに、どちらへ向かうのか、頭の中でイメージしながら動く。

全身の関節を緩め、自然に沈み、地面に足裏が張り付く感覚になったとき、足裏に床からの反発を感じる。これは、わざと足で地面を蹴ったり、反動をつけている訳ではなく、自然な関節の緩みからくる沈勢によって、地面からのエネルギーを自分の中へ取り込むような感覚が生まれる。

その得たエネルギーは、足裏を伝って、体内をうごめきながら胴体を通過し、肩甲骨、肩をすり抜け、最後に手先から放たれる。

自分が真下へ沈む感覚になると、「床が自分を上へ押し上げるチカラ」と「自分が沈むチカラ」は拮抗している事になる。

自分のベクトルは、あくまでも真下を向いているけれど、腕~手先が前側の進行方向(敵がいる場合、敵の方)を向いていれば、体内のチカラは、体を伝って、最後には掌や指先から進行方向へ放たれる。この一連の流れを、関節や筋肉を柔らかく保つことで感じる。


軸、芯を保つことでチカラが伝わりやすくなる


ニュートンのゆりかごは、パチンコ玉のような固くて重さのある物体が、重力に従って自然にぶら下がっている。

もしこれが固い球体ではなく、フワフワの綿だったら、直線的なチカラはしっかり伝わらない。

フワフワの物体は、空気抵抗が邪魔してバランスが取れず、予想外の方向へいたずらに動くだろう。空気抵抗や摩擦が大きすぎると、従来の動きの法則は実現しない。

このブログで「筋肉に無駄な力を入れない」とか、「柔らかく動く」と散々言ってきたのに、「なぜ固い球の話?
 フワフワの綿の方が良いってコトになるのでは?」と突っ込まれるかもしれない。

つまるところ大事なのは、自分がチカラを発する際、筋肉に無駄な力みは要らない(=体の表面は柔らかく)、だけど芯は必要。チカラを伝えるための「体の張り」は存在するということ。

筋肉の馬鹿力は無くとも、「軸」と「芯」が体内にしっかりと存在し、正しい姿勢と呼吸によって体の張りと膨らみを生み出す。この要領を備えれば、上手い具合にチカラが体の深層部の軸を伝って出ていくようになる。

固い物体の方が直線的なチカラが伝わりやすいので、相手(敵)がいる場合、自分の適度な張りでもって、相手が不意に硬直した一瞬を狙うのがいい。ただ現実には、このタイミングを狙うのは大変難しく至難の業で、熟達した人以外、簡単にできる事ではない。

横から加えられたチカラは、横方向のベクトルのまま横方向へ伝わる。もし横から攻撃されたら…。互いに動いていれば、その時々で相手の体の状態は違うのでタイミングが難しいけれど、自分はとにかく重心移動しながら床に沈み込むイメージで、押された圧を弱めたい。

過去記事【緩んでこそ、体の奥底からチカラが湧いてくる】で、チカラの伝わり方について触れたことがある。もし自分が相手(敵)から押され、「相手の攻撃をのがしたい、かわしたい」と思えば、自分は硬直せず、ゼリーみたいに柔軟になればいいと書いた。

適度に弾力のあるゼリーみたいな柔らかな物体は、押してもブルルン!と揺れて、受けたチカラをうまい具合に吸収→分散していく。ただ、倒れてはいけないので、軸はシッカリと保つ。


解りづらいときは別のモノをイメージしてみる


初心者の方の場合、体から湧き出るチカラの流れが意識できず、手先をいきなりガバッと体から離してしまう。

私が指導する側に立つとき、腕の動きについて説明するケースではこんな表現をする。
「背中の肩甲骨が緩み、開き、その柔らかな動きが肩に伝わり、それが肘へ、そして最後に手先へ到達する。」 そうすると、いきなり手先をガバッと体から離す動きは減る。

解りづらいという初心者の方がいれば、動きが波のように伝わるウェーブダンスや、糸電話などをイメージしていただけると良いかもしれない。

糸電話といえば幼児期に、幼稚園などで遊んだ人は多いと思う。声として出した音は、振動という形で細い糸を伝って流れていく。太極拳でも、微妙にコントロールされたチカラが、細い糸を伝うように、徐々に体の内部を通って外へ放出される。

「体内で生み出したチカラが伝染していく」イメージを持ちながら、柔らかく自然に、良い姿勢で動けるようになるには年数を要する。

「太極拳を何年くらい熱心に稽古しているか」という経験年数は、動作に柔らかさが伴っているか、見ためで大体分かる。

経験が浅く、チカラが徐々に伝わる感覚を意識しづらい人も、真面目に稽古を重ねれば、年数を経て必ず理解できるようになる。

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