「おきあがりこぼし」のように上虚下実であること

直近のブログ記事で、「水飲み鳥」「ニュートンのゆりかご」について書いた。太極拳や中国由来の運動をまったく知らない人が聞いたら、水飲み鳥などの動きと太極拳動作を比べること自体、「一体どういうこと?」と怪訝に思われるかもしれない。でも、ちょっとかじった人なら、「ああ、何となく分かる~、そんな感覚あるかも~」と思っていただけるかもしれない。

私は「太極拳っておきあがりこぼしだな~」と馬鹿なことを勝手に考えていたのだけど、先日、ある資料をみていたら、なんと太極拳の姿勢が不倒翁のようだと書いてあった。こんなこと考えるのは自分だけでは無かった!
ちなみに周恩来元首相は、文化大革命のとき失脚しなかったことで不倒翁の異名を持つとか。

…ということで、今回は置物シリーズ(?)第3弾。「おきあがりこぼし」で締めたい。

おきあがりこぼし


高齢者の転倒は、頭から突っ込むケースがある


太極拳の動きに慣れていない初心者の方や、運動習慣がない人、筋力が弱っている高齢者の方などが前傾姿勢(または後傾姿勢)になったら、バランスを崩して転びやすい。また、相手と組み合う場合、ひどく前傾したり、仰け反ったらバランスを崩し、そこをポンと押されたらすぐさま倒されてしまう。

だから自分の体全体を柔らかいバネのようにしならせて、ちょっとバランスを崩しても、すぐに元に戻ることができる「おきあがりこぼし」のようにいられればいい。

高齢になり運動習慣がない人は、筋力の衰えに加えて反射神経が鈍ってしまうので、思いもよらない大怪我に繋がることがある。

運動習慣がないまま年を取ると、筋力がどんどん衰えてしまって、思わぬ場所で顔や頭からバーンと突っ込んで転倒するケースがある。

最近、知人から聞いた話では、お知り合いの高齢の方が、駐車場の縁石に足先をひっかけ、頭から地面に突っ込んで怪我をしたという。

そういえば、私の親族にも以前、同じような事があった。運動習慣のない
80代の親族は、平らな道を普通に歩いていて地面につっかかり、顔から地面に突っ込んで顔を怪我した。

運動習慣がない人の場合、
6070代の頃は普通に歩けていたとしても、80歳前後になった途端、足腰が急激に弱り、歩くのがすごく遅くなってしまう。


まずは関節を緩めること



高齢者の方々にとって、健康法として太極拳を行うことは利点になる。

バランスをちょっと崩しても、おきあがりこぼしの様にすぐさま元に戻る訓練を、太極拳の稽古を通じて続けられる。それが転倒防止になる。よろけてもすぐに体勢を立て直すことができるようにしていき、将来の転倒防止→寝たきり防止に繋げる。

太極拳を習いに来て下さる方々をみていると、だいたい習い始めの初期は、脚の関節を緩めるコツが掴めず、脚を伸ばしたまま動作をしてしまいがち。これでは機動性に欠ける。

緩みがないと柔らかい動きにはならないので、全体的にぎこちない動作になり、バランスも悪い。そしてグラついたり、上半身、特に肩や腕でバランスを取ろうとしてガチガチに力が入ってしまう。

この状態を抜け出してバランス感覚を整えるには、根気よく日々の稽古で手直ししていかなければならない。

人間の体には関節がたくさんある。すべての関節を柔らかく使う。

動くとき、思い切り反動をつけたりせず、筋肉を強く突っ張らず、足の虚実を自在に操りながら柔軟性をもってバランスよく動ける状態をキープしたい。


上虚下実を実現すること



おきあがりこぼしは、七転び八起き。たとえ斜めに押されても、必ずまたボワンと起き上がる。

アイロンがけ不要の形状記憶シャツというものがある様に、太極拳をする際、姿勢に意識を向け、ちょっと傾いたとしても「すぐに再びバランスよく立てる状態」を形状記憶しておきたい。

上虚下実

おきあがりこぼしが倒されてもすぐに起き上がるのは、上虚下実だから(参照:過去記事)。

上半身を虚にして無駄な力を抜き、肩を緩めておけば、おきあがりこぼしのように軽くバランスよく立っていられる。下半身は重力に従い、足裏に体重を乗せ、どっしり落ち着いている。

このような体勢でいれば、起き上がるのに過剰な筋力は要らない。いつも軸を保って、元に戻ろうとする柔軟性があればいい。柔軟さがないと倒されやすいし、元に戻りにくい。

おきあがりこぼしの様に、いつも体を立てる事をキープするには、このブログでも何度も書いてきたように姿勢を整えること。そして頭を置く位置にも気をつけたい。顎を引き過ぎたり、逆に前に突き出すと、体全体のバランスは悪くなる。

【気沈丹田】
という言葉は、太極拳を学んでいる人なら誰もが意識することである。

気が満ちている場所、気の貯蔵庫である臍下丹田。ここを充実させる感覚を持ち、腹を据えた感覚で立つ。

日本には昔から、臍下丹田あたり(=腹の部分)を意識した言葉が沢山ある。

腹を据える。
腹を立てる。
腹の虫がおさまらない。

…等々、あたかも腹に感情が宿っているような感覚。

丹田は、中国由来の言葉ではあるけれど、日本人の「心」でもある。

体全体が緩んでいても、気を沈めて腹や腰の辺りがドッシリしていれば、常に上虚下実でいられる。ただし誤解してはならないのは、上虚下実を実現して、ひたすらドッシリした状態で動かないのは駄目で、大事なのは、安定感を得たその流れで、そこからどのように脚が運び軽快に動けるかである。


◆◆◆◆◆

太極拳というものを、突き詰めて深く知ろうと思えば、物理的な視点が必要になる。体の動かし方、腕の角度、脚の開き、目の向きなど、学びが深まるほどに考える必要がある。

私は、昔から物理が苦手である。アインシュタインと自分は、きっと生物学上の分類が違う。
TVで“ピタゴラスイッチ”を観たときは、玉が転がっていくのを「おもしろいな」とは思ったけど、それ以上突っ込んで考えることはできない。

この世のすべて、世の中のあらゆる事象は、すべて数式で表すことが可能らしいけれど、私にはさっぱり分からない。こういった分野のことを深く掘り下げる能力に欠けている理由は、数値によって物事の在り方を追うのが苦手だから。

でもこんな私でも、感覚的に「こんな感じかな〜」という見方ならできる。

太極拳の稽古で、最初に「わけが分からない」と
思った事でも、稽古を繰り返していくと、感覚で少し分かる部分が出てくる。

だんだん「何となく分かってきたぞ〜」となる為には、ひたすら同じ型を繰り返してみる。数値で事象が追えなくても、稽古を繰り返すことにより、体と脳に動きが植え付けられ、理解を深める為のステップとなる。


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