荒ぶる心を静める
あきらかに血圧が高そうな人
かなり昔、私が大学生の頃の話。身内や友人の話ではないのに、自分の中で強烈な印象に残っている出来事がある。
私は大学時代、第二外国語の選択科目としてドイツ語の講義を受けていた。ドイツ語の教授陣の中に、ある中年男性がいらっしゃって、その教授は普段、いたって普通のテンションで講義を行っていた。
ところが、ある初夏の日の講義で、急に烈火のごとく怒り出したことがあった。受講している学生達に向かって目をひんむいて激怒し、顔を赤くして怒鳴り散らした。そのときの剣幕、怒りの凄まじさは強く印象に残っていて忘れられない。
かなり昔の話なので、教授が怒った原因…、どの学生に対して怒ったのか?、何を怒ったのか?、全く覚えていない。ただ、「些細な事であそこまでキレる?」と思った記憶がある。
この話には続きがある。その後、大学の長い夏休みを終え、後期に入って久しぶりに大学へ行ってみると、その教授は亡くなられていた。
その頃、私はまだ若い学生の身だったので、中高年の体調や血圧のことなど意識したことがなかった。今になって思えば、あの教授はかなり高血圧だったのだろう。あの日、怒鳴ったときは、血圧が急上昇していたに違いない。
それから、これはまた別の昔話。私は中学時代、スパルタとも言える厳しい指導の英語塾に通っていた。そこの塾講師は中年男性で、お酒が大好きで、毎晩たくさん飲んでいたようだ。ひどい肥満ではなかったけど、お腹がボン!と出ていた。
勿論、お酒自体が悪いのではない。ほどほどに楽しく飲みながら過ごす日々は良いと思うし、お酒好きな人も、きちんと運動をして心身を整えればいいと思う。でもこの塾講師は、運動とは無縁の人だった。
講師の目はいつも赤く充血しており、ときには黄疸症状が出ているような黄色がかった目をしていた。かなり飲みすぎの毎日を送っていたのだろう。性格はというと、血気盛んに大きな声でワアワア会話するタイプ、いつも気がたかぶっている様子で、静寂とは無縁の人だった。
私が大人になった今思うのは、きっとこの人もかなり高血圧だったのではないかということ。
私が高校生になったとき、つまり、この中学生向けの塾に通うのを終えてから間もなくして、この塾講師は亡くなられた。塾生仲間で葬儀に行った。葬儀では、私達より年下の講師の娘さんが、シャツのそでを目にあてて涙を拭っていたのを鮮明に覚えている。
興奮と抑制のバランスを整えたい
大人になった私は、太極拳に出会い、その流れで中国の養生法や気功、中医学の世界に触れるにつれ、「精神面も、陰陽のバランスがいかに大切であるか」を意識するようになった。
興奮と抑制のバランス。それから、血圧は高すぎても低すぎても良くない。何事もバランスだと思う。
怒りや興奮は、血圧を急上昇させる。
(参照:過去記事、ノルアドレナリンの解説部分)
高血圧で頭がモヤモヤしている状態が続くと、これがまた怒りを増進させる。悪循環である。
この悪循環を断ち切るには、いかにして副交感神経優位にするかが重要になってくる。
中医学では、怒りが気血を逆上させるという考え方がある。「怒則気上」という言い回しがあり、怒りや興奮によって気血が上昇し、胸が苦しくなったり、頭がクラッとしたり、頭部や目が赤くなる。
つまり、頭に血がのぼる状態。感情の起伏が激しい場合、心拍数が急激に上がり心臓にも負担がかかる。血圧の急上昇で、当然血管にも負担がかかる。
近所の人や親戚などを見渡すと、稀に、”いつも何かに怒っている人”がいる。とにかく、その人に会うと常に怒っている。朗らかさが無く、あまり笑わない。何に対しても不満と怒りを感じてしまうような不安定な人は存在する。
人生はままならない事も多い。あきらめや悟りも必要だと思う。良い意味でのあきらめ。そして「これでいいのだ。」という悟りの心境を得て、そのあとは自分なりの楽しみをみつけ、思いっきり人生を楽しんだ方が健康に良い。
怒りをあらわにする場合だけでなく、怒りを表面に出さず「グッと我慢する」のもストレスになり血圧を上げてしまう。発散するために他人へ攻撃的な口調で怒るのは、勿論良くない。だから、そんなときこそ緩やかな運動をして、スッキリ発散するべきだと思う。
気を静め、入静状態になる
私は現在、日々の生活の中でむやみにキレることなく、怒りをコントロールできている方だと思う。それは太極拳や呼吸法、気功健康法を実践し、心穏やかに、体もスッキリさせる事ができる毎日を過ごしているから。
もともと私は打たれ弱く、鋼のメンタルは持ち合わせていない。当然、他人の言葉に落ち込んだり、怒りを感じることだってある。
もし私が太極拳や中国由来の健康法に出会っていなかったら、きっと毎日不安定で、些細なことで頻繁に怒り、家族に迷惑ばかりかける中年になっていたかもしれない。
安定したメンタルをキープすることに繋がる運動に出会い、自分や他人を穏やかな目でみられる日が増え、本当に良かったと心から思っている。
中国由来の健康法に出会い、ゆっくり気をめぐらす独特の感覚を学んだ。太極拳の動作を繰り返し行うことによって、自分や他人の状態を俯瞰してみるようになってきた。自分や身近な家族のことでも、客観的な見方が段々できるようになった。
健康を維持するには、食事や睡眠も勿論大事だけど、とにかくゆっくり呼吸をして、筋肉を緩やかに動かすこと。
「気を静める」ための自分に合う方法をみつけておくこと。
私にとっては、それが太極拳。体を沈める感覚が、気を静める。自分の呼吸に集中する。入静状態になる。何事にも動じない心を養う。
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