太極拳の嬉しい効果
腰痛持ちの人からの言葉
私は数年前から、ある施設で太極拳の講座を受け持たせていただいており、そこでは老若男女いろんな人が講座を受講されている。
ある日、稽古開始から数ヵ月経過している中年男性の方から、こんな言葉をいただいた。
「自分はずっと腰痛で苦しんできた。
長い間、整体にしょっちゅう通ってきた。
しかし太極拳を始めてからは腰痛が楽になった。
整体に通う回数がグンと減った。」
腰痛の辛さ。これは私もすごく理解できる。私は昔、太極拳に出会う前、怪我で足腰をひどく痛めた経験がある。この怪我こそが、私が太極拳を始めるきっかけとなった怪我で、当時リハビリのつもりで稽古を始めた。
足腰を痛めた過去はもう随分前のことだけど、腰が痛むときの嫌な感じは感覚としてすごく覚えている。痛めたばかりの頃なんか、腰を少し前に倒しただけで辛く、特に洗面台やお風呂で前かがみになるのが痛かった。トイレに行くのも億劫で、おそるおそる便座に座っていた。昔そんな経験をしたことがあるから、腰痛持ちの人の辛さはよく分かる。
私がリハビリのつもりで太極拳を始めてから、約20年が過ぎた。今は、おかげさまで怪我の後遺症もなく、普通に生活できている。身一つで行う太極拳動作は難なくできるし、棒術の稽古中も腰が痛むような事はない。
もともと自分のリハビリとして始めた太極拳だけど、輪が少しずつ広がり、今こうやって自分以外の方の健康づくりのお役に立てることが素直に嬉しい。太極拳の姿勢、動きの要領を学ぶことで腰痛が緩和できるという健康効果をシッカリ感じ取っている方がいらっしゃる。大袈裟だけど、今までやってきて本当に良かったと思っている。
脊柱起立筋群をほぐしていく
そもそも腰は、腕(肘)などと違い、ダイナミックに大きく角度をつけて曲げ伸ばしづらい部分なので、中高年以上の年齢層になると、加齢による筋力不足、運動不足等により凝り固まっているケースが多くみられる。
若い世代でも、仕事で長時間座っていなければならない人、猫背のまま同じ姿勢でいる人、合わない靴で長時間歩いてしまった人、女性に多いと言われる反り腰気味の人など、脊柱起立筋群が緊張して腰痛になりやすい人は多い。
かといって、ただやみくもに動かせばいいというものでもない。バレエその他の舞踊などでレッスンを積んでいる人なら腰を深く曲げることができるかもしれないけど、普通の人が急にそんなことをしたらグキッと腰を痛めてしまう。
昔、私の知人が社交ダンスをやっていたが、レッスンを重ねていく過程で腰を痛め、痛み止めの飲み薬を服用していた。決してダンス自体が腰に悪いというわけではない。人によってはダンスで血流が良くなり腰痛が緩和される人もいらっしゃる。
結局は、程度とやり方なのだろう。動くとき、正しく姿勢をキープし、筋肉は硬直化させない、激しい動きは避けるなど、自分の体力に応じて加減すれば腰に大きく負担はかからないだろう。
でも、もし過剰にピーンと張った状態で、“不自然な良い姿勢”を無理してキープしたり、合わない靴を履いてレッスンをすれば腰痛は悪化するだろう。
気をつけたいのは、そもそも腰の上には重たい胴体と頭があり、何十キロも支えている事になるわけで、そのことを考慮して運動しなければ、どんな種類の運動であっても、知らぬまに体を酷使して腰に負担をかけてしまう。
結局のところ、腰痛持ちの人にとって、動かし過ぎはよくない、かといって長時間ジッとして筋肉を動かさないのもよくない。そんなとき、腰周辺の筋肉を無理なく、緩やかにときほぐす太極拳の動きはとても良い。
命の門は閉ざさない
太極拳では【含胸抜背】をキープする。要は、上半身の緩みのことであり、重力に逆らわず体重を自然に下に落とす感じ。決して胸や背中の筋肉を硬くしない、無駄に張らない、だからといって縮こまらない。つまり「のびやかに緩める」。
体の中心軸はまっすぐに据え、体中のあらゆる部分の無駄な力を抜き、上半身は含胸抜背のまま動けば、腰まわりは自然とほぐれる。
正しい姿勢で緩やかに動いていくと、腰や背中、つまり自分の後ろ側の筋肉がユルユルと動き、血流が良くなり、稽古が終わるころには凝った感じの背中や肩や腰が楽になる。
足腰を大きく激しく揺り動かしたり、骨盤を激しく動かすような事はしない。だから、常日頃より腰痛で苦しんでいる人も、体に過剰な負担をかける事なく、無理なく腰周辺の血流を促すことができる。
全身の筋肉の無駄な力を抜き、体を柔らかく使ってユックリ動いていく、その要領を守りつつ、ひたすら夢中で稽古すれば、自然と腰周辺はほぐれる。
骨盤周辺は緩めているけどフラフラさせず、体の軸を安定させ、目線~頸椎~胸椎まわりは緩やかにユックリ旋回する。そうすると胴体の深層部分のインナーマッスルが少しずつ無理なく動き、付随して腰周辺の気血の巡りが促される。
腰には命門のツボがある。エネルギーが宿っている、命の門と書く経穴(臍の裏辺り)。
命門周辺が凝り固まり気血が滞ることは腰に良くない。“命の門”を閉ざすこと無く、いつも開閉できる状態でいたい。
太極拳動作が要領良くできていれば、套路の際、【収臀~塌腰~】や胴体上部の捻りが繰り返され、臀部、背中、腰の奥のインナーマッスルは柔らかく動き、命門あたりの巡りが良くなる。
滞っていた血流、リンパ流が促され、辛い腰痛は緩和されていく。また、太極拳のゆったりした動きで脳をリラックスさせることが、ストレス由来の腰痛に働きかける可能性だってある。
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