久しぶりの狂言の舞台

延々と多忙な日が続き、ブログを更新しないまま、軽く二カ月以上が経過してしまった。何だか忙しい一年だった。

でも、そんな忙しい合間をぬって、今年は楽しい事もあった。今年、久しぶりに野村萬斎さんの狂言の舞台をみたのだ。3年前にコロナ禍になってから、あらゆる音楽会や演劇などに出向いていなかったので、実に3年ぶりの舞台鑑賞だった。

やはり狂言の舞台は、舞台装置も簡素で気持ちが良いほどスッキリしていた。演者さん達の無駄をそぎ落としているけど縮こまらない優雅な動き。過剰な演技や装飾はない。ジャンルは違うのに、やはり今回も、太極拳と重ね合わせながら観てしまった。(過去記事でも萬斎さんのことを書いています

萬斎さんの動きは相変わらず整って安定した体幹、足さばき、肩と首あたりのスッキリした感じ、幼い頃からの何十年もの稽古の蓄積が醸し出す独特の立ち姿、特有の存在感。今年
56歳であるという年齢をまったく感じさせない、スルスルと滑るように動く体。

鑑賞した舞台では、萬斎さんの御父様、人間国宝である野村万作さんも出演されていた。円熟味を増した演技をみせてくださった。
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歳の現在も舞台に立ち続けるという凄さ。多少かすれ気味だけど声も通る。日々の相当な努力と、厳重な体のケアが必要だろう。並大抵の努力ではないと思う。

一方、萬斎さんの御長男の裕基さんも出演されていた。「親子3代、現役で同じ舞台に立つとは凄いことだな。」と改めて思った。

以前(コロナ禍になる前にも)、親子三代の舞台をみた。そのときの裕基さんは若くて初々しい感じがしたけど、今年の舞台では、軽快な動きの中にも大人の男性の色気のようなものが感じられ、成長を感じた。他の演者さんよりも裕基さんは若いので、やはり体の軽やかさと安定感は凄い。

円熟味が感じられる万作さん、そして大成された感じの萬斎さん。それぞれ素晴らしいのだけど、裕基さんを見ていると、やはり単純に「若さっていいな。」と思う。体の動きに関しては、やはり若い方が動くに決まっているのだから。

新作披露では、萬斎さんと裕基さんの親子共演で、お二人とも、それはそれは軽やかな動きだった。太極拳風に言うとすれば、軽霊が実現した動き…とでも表現したくなる。終盤の裕基さんの足の動きは、特に軽やかだった。




私は素人だから狂言の詳しいことは知らない。過去に萬斎さんの著書を数冊読んで、それで少し狂言のことを知った程度。演目の基礎的なことや歴史については深く知らない。

今年みた舞台で、演目に入る前、萬斎さんが会場の観客へ説明して下さった内容をいま思い出している。内容をかいつまんで言うと、舞台で楽器の奏者は基本的に4人いて、観客から向かって右側が笛、その隣が鼓など位置が決まっている。

そして狂言や能の舞台は大体、南向きで、観客から向かって右は東、左は西になる。方向によって日陰ができるので、そこには「陰陽」があるのだと言う。

楽器について、更に聞いた説明によると(うろ覚えの部分もあるけど、何とか思い出して書いてみる)、笛が西方へ向かって音を放つ、別の楽器では東方へ向けて音を放つ、太鼓は縦に向かって、というふうに、それぞれの音を放つ方向はすべて違う方へ向いている。つまり「拮抗しているのだ。」と聞いた。

萬斎さん的には、「その拮抗した様子が、力学的にバランスが取れている気がする。だから面白いんだ。」…とおっしゃっていた。拮抗とか、力学とか言われると、ますます太極拳の動きと重ね合わせてしまう。

太極拳で使う筋肉や関節は、内旋、外旋しながら拮抗してバランスを保つ。重心は、体重を上手く利用し、地球の真ん中へと向かう。体の全て
100%が真下へ向かえば、床にヘナヘナと崩れ落ちるわけで、そうならないのは、体重を自然に沈めた分、逆に床から足裏への力の返りが起こり、それで拮抗してバランスよく立つ。抗重力筋を利用し、ほどよく立つ。

狂言というのは、現代の私たちも楽しめるエンターテインメントではあるが、
600年以上の歴史の中ではおそらく中国の陰陽思想などの影響を受けてきたのだろう。実際に、能や狂言は、陰陽五行説の影響を受けているのだと書籍等で記載されているものもある。

そういえば、以前テレビで香道について取り上げているのを観たとき、香道にも陰陽があると言っていた。灰を整えるとき、陰陽を意識して表現するのだとか。それから歴史ある茶の湯の世界も、陰陽五行の影響を受けている。

狂言の舞台は大抵、南向き…という部分については、太極拳でもよく南向きで套路を始めると示してある。これは単純に、方向を分かりやすくするために、暫定的に南向きと設定するという見方もあるし、そうではなくて風水的にとか、陰陽五行の考え方で、南向きから始めるのが良いという見方もある。

陰陽バランスは、狂言、太極拳など、いろんな世界に存在するのだ。なにやら、日本の古いもの、いろんな世界を紐解いていけば、何かしら中国古来の思想の影響を受けていて、面白いくらい共通点が見つかっていき、たくさんの繋がりを感じられそうだ。
 

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