餅は餅屋

私は、健康法として運動を指導する事を、約10年ほど続けてきた。高齢者の方と接する機会も多い。この活動をしながら気掛けている事がある。それは決して、西洋医学の専門家である医師のような、医療面でのアドバイスはしないという、至極当たり前の事だ。

私が健康法を指導させていただく中で、特にご高齢の参加者、受講者の方から健康相談を受ける事もある。「この辺が調子悪いのよね~、最近…」、「腰が痛いんだよね~、運動はしない方がいいかな」等々。

そんなとき私がアドバイスできるのは、自分自身の過去の経験でハッキリ分かっている事と、一般に周知されている健康情報、それから、これまで学んできた養生法や中医学の知識の範囲内で言える程度の事まで。

医師や理学療法士、作業療法士などの専門家だけが口にできるような内容については、当然、私には断言できない。私は、医学やリハビリの資格を持つ専門家ではないから、医療面での的確なアドバイスはできないし、やってはいけない。勿論、体の事は、少しは学んできた。でも医師では無いのだから、医師の真似事など決してできない。

腰痛

教室などで、高齢者の方と一緒に「健康状態について語らう」機会は多い。でもアドバイスを求められても、一般常識の範囲の健康情報に、ほんの少し自分の知識を足して話す程度にとどめる。

筋肉や骨、内臓の機能で、自分が分かっている事から、そして、少しばかり学んだ中医学の分野から、自分が言える範囲の事をお伝えする。ほんの参考程度になれば…と、有効な養生法についてお伝えする。

だけど、これを絶対やるべき!とか、これを実行すればココが良くなるよ、なんて事は絶対に言わない。

「餅は餅屋」という言葉がある。いろんな分野に専門家と呼べる人がいる。専門家は、しっかり学んで習得した領域について、専門的な発言をし、人にアドバイスする事ができる。

もし誰かが、自分の専門外の事について語る場合は、気をつけた方が良い。専門外の話であれば、自己の勝手な判断ではなく、過去に専門家である他者から聞いた話…、などという前提で、決して断言せず、参考程度に話すしかない。

「専門の人から聞いた話では、〇〇という事でしたよ」とか、「〇〇という医療専門誌から得た情報で、こういうことが書いてあったんですよ」などと、あくまでも自分は専門家では無いけど、何かの媒体から得られた情報なんだ…と正直に前置きして話せば良いと思う。

もし自分の専門外の事について、勝手な思い込みで、中途半端な知識のまま何かを断言すれば、それはリスクとなる。アドバイスを求めてくる相手にとってリスクになるかもしれないし、発言した本人にとっても、信憑性の無い事を断言し、あとで他人からの信用を失うという意味でもリスクとなる。

実は、余所で、過去にこういう場面を見かけた。私が直接関係していない運動関係の団体の人が、高齢者の人に対して、体のケアについてアドバイスをしていた。

その団体の人は、医療の専門家でも、リハビリの専門家でも無いのに、膝や腰に痛みを抱えている高齢者の人に対して、「今は患部を冷やした方が良い!、家に帰ったら絶対に冷やしなさいよ!」と言っていた。

私は、傍からそれを垣間見て、ホントかいな~??…と思った。確かに、膝や腰に痛みを抱えている人が、治療の一環で患部を温めたり、逆に、炎症を抑える為に冷やす事がある。ただ、どのタイミングで冷やすか、温めるか…というのは、医師や理学療法士さんが慎重に診断した後のアドバイスなら信憑性はあるけど、専門外の人がこうしろ!と断言するのはどうなのだろう。

運動の指導者などが、自分も医師の立場と同等だと勘違いしたり、自分が理学療法士・作業療法士のようなリハビリの専門家だと錯覚して、独断で勝手なアドバイスをおくり、もしも後から、その人の痛みが悪化したら、責任取れないじゃないか…と思う。

リハビリ


とにかく私は、自分が知り得た範囲、自分の経験で分かっている範囲の事は、参考程度には話せるけど、それ以上の医学的な見解、方針などについて絶対に断言しない。餅は餅屋だから。
専門家では無い人は、もし高齢者の方から相談されたとしても、自分の立場と知識を超える範疇の事を言ってはいけない。

どんな分野で活動する人であっても、正直さが大切だと思う。「私が言える範囲の事はここまでです。」、「もし酷く痛くて、治療が必要なレベルなら、やはり専門医にかかって治療やアドバイスを受けるべき」と、自分の立場を明確にした後に、妥当な話をすべきだろう。

人の体に関する重要なこと、特に治療方針などは、医療分野の素人が安易に口にしてはいけない。

「病は気から」と言うし、プラシーボ効果なるものも世にあるわけだし、心を整える代替療法や民間療法を否定するわけでは無い。現に私は、自身が続けてきた太極拳や気功が、自分の健康づくりに奏功していると信じてやまないし、これらが「体に良いですよ」と、自信をもって言える。

しかし、体のどこかが不調に陥っている他人に対し、安易に、「これで絶対に治りますよ~」、「今は絶対にコレをやるべきですよ~」なんて事を、妙に自信をもって、自己判断で言い切ってしまうとか、治療効果をうたう様な事をしてはいけない。

自分の領域と、人の領域。自分ができる事と、他の専門家ができる事。それぞれの社会的な役割がある。絶対的に確証が持てない分野、断言できない事は、専門外の人間が安易に決めつけて、「絶対こうした方がいい!」などと口にすべきでは無いと思っている。


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