自分の事を分かっているか
自分の事を、人はどれほど理解しているだろう。自分に似合う色と、好きな色が同じとは限らないし、子供の頃に憧れていた職業が、自分に向いてるとは限らない。自分はこんな人間だ、と思っていても、他者からみれば別人かもしれない。
姿勢はどうだろう。
私は、健康法としての運動の講師を続けているので、人の姿勢がやはり気になる。もちろん自分の姿勢にも、なるべく気をつけるようにしている。正直言うと、私自身、携帯やPCに向かうときなど、油断したら、すぐに姿勢が崩れてしまう。教室では、「体を立てて~」と人に何度も伝えているのに。
ただ、健康法を指導する立場に立たせていただいているお蔭で、やはり稽古がある日は、稽古場に入るとすぐに太極拳や気功の指導者モードになり、姿勢をスッと正す事はできる。稽古のとき、もし私が変な姿勢で過ごしてしまえば、何の説得力も無くなってしまうので、稽古のときは特に、極力シャンとして過ごす。
太極拳の「シャンとする」は、「気を付け!」のピーン!、シャキーン!とした姿勢では無く、あくまでも無理なく自然に、体中の関節を緩めた上で真っすぐ立つ。
世間には、80代でもシャンとして颯爽と、明るい雰囲気で歩く人もいれば、40~50代でも猫背で歩幅も狭く、一見、高齢者のように見えてしまう人もいる。
中高年以上の人の中には、常に姿勢が微妙に前かがみになっている人もいる。理由は、人によって様々だろう。運動不足、病気や怪我のせい、足裏への体重の乗り方が悪い、骨粗鬆症で体の一部が歪んでしまっている等々…。
人間の体は、もともと100%左右対称ではないし、数ミリ程度のズレなら、誰でもある。私自身も、過去に右足を痛めた経験があるので、左右の足の形が微妙に違う。中年以上になれば、誰だって、何かしらあるだろう。そのような体の特徴が、姿勢の維持に影響してしまう場合もある。
一方、病気や怪我では無く、明らかに運動不足で、見た目でハッキリ分かるほど姿勢が悪い人、異様にしんどそうに立っている人もいる。ご本人が、しんどそうに立っている自分に、全く気づいてない事もある。
稽古に来る初心者の高齢の方の中には、足裏への体重のかけ方のバランスが悪い人もいらっしゃる。そういう方は、最初に来られたとき、酷く姿勢が前傾しているケースがある。常にそんな状態で生活してきた方は、姿勢が悪い状態が当たり前になっており、ご自身は、「自然に真っすぐ立っている」と思い込んでいる事もある。
高齢者の方で、骨粗鬆症など何らかの理由で、姿勢が傾いている人は、若い頃の状態には戻らない部分もあるけど、太極拳などの良質な運動を継続する事で、それ以上の悪化を防ぎ、筋力やバランス感覚を強化する事はできる。
軽いストレッチなども併用しながら、柔軟性を取り戻す努力をすれば、少しでも良い姿勢をキープできるようになる。大切なのは、あきらめずに続ける事。一度に頑張り過ぎないで、徐々に様子を見ながらやっていく。
それ以前に、何より、まず大事なのは、「自分の姿勢が崩れてきた事」に気付く事。気付かなければ、そもそも姿勢を調整しようとも思わないわけで、改善には繋がらない。太極拳の稽古は、姿勢の歪み、微妙なアンバランスに気付くきっかけとなる。
太極拳の稽古では、毎回、毎回、姿勢を整える事を繰り返す。半年、1年、2年、それ以上…と続けていけば、御高齢の方でも、徐々に良いバランスで立てるようになる。実際に私の教室に来て下さっている高齢女性は、それを実現された。
その方は、70歳頃に稽古を始めて、今年78歳になられる。初期には少し動くだけでフラフラして不安定だったのに、熱心に稽古を続け、今は無駄な力みが無く、安定して動けるようになられた。そして現在、指導補佐をする立場に成長された。
太極拳には、優れた転倒予防効果がある。高齢者は、たとえ運動をしていても、若者よりは転びやすい。でも、太極拳を継続していると、たとえ転んだとしても大怪我に繋がりにくいというか、転び上手になる。1回や2回の稽古の体験では駄目で、とにかく長く継続する事。みんなと一緒に、毎回まじめに稽古をする事。
太極拳教室に来た人は、自分の姿勢の良し悪しに気づくチャンスに恵まれる。初回の稽古から、力まずに良い状態で立つ訓練をする。稽古を続ければ、足裏の使い方も上手くなる。自分の姿勢がどうなっているか、自分が足裏にどう体重をかけて立っているか、繊細に分かるようになる。
鏡があるスタジオなら、自分の姿を鏡に映して、姿勢をチェックしてもらう。首の状態、頭の傾きまで確認してもらう。
姿勢の良し悪しというのは、リアルな自分の姿を知らないと改善しない。
太極拳の動作をする際に、大切なポイントは山ほどある。その中でも最たるものが、体軸を意識して姿勢を整える事。
頭の位置も、とても重要だ。一歩外に出てみると、頭が胴体の上にちゃんと乗っていない人が、かなり多い。高齢者だけではなく、携帯の画面を凝視している若者も、首がダランと下にさがっている。
また、立ち姿勢を整えるためには、骨盤の位置、骨盤の傾きにも意識を向けなければならない。普段の生活の中で、自分の骨盤がどのように傾いているか、意識しない人の方が多いかもしれない。太極拳の稽古を継続すると、必ず骨盤にも意識が向くようになる。
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