デリケートな頸をしなやかに保ちたい
百会を意識することで頸椎のあり方を整える
前回のブログ記事で、百会のツボについて書いた。また、今年2月には【会陰から百会までをまっすぐ立てて動きたい】というタイトルでブログ記事を書いた。太極拳を稽古している者にとって、頭頂の百会のツボは、姿勢を保つ上で大切なポイントとなる。
人間の体の一番上に、重たい頭が乗っている。重たいものが正しい位置に据えられなかったり、中心軸が傾いたりすれば、当然、全体のバランスに影響してしまう。
太極拳をしているとき、体全体には無駄な力は入れないけれど、股の会陰から百会のツボまでの中心線には、1本のブレない芯が通っていることをイメージする。その上体が下半身の上にポンッと自然に乗ることで、無理なく姿勢を整え、バランス良く安定して立つことに繋げる。
体のいろんな箇所をピーンと張って力む姿勢は長くもたない。だから適度に力を緩めてまっすぐ立ち、自然な良い姿勢を維持する。
太極拳を学ぶ過程で【虚領頂勁】(シュイリンディンジン)という言葉に出会った。頸部は虚、つまり力を込めず、柔らかく置く。頭の頂を天に向け、精神面ではできるだけ雑念を取り去り無駄な力を抜くことで、神経伝達や気血の巡りをスムーズにしてまっすぐ立つ。
虚領頂勁を実現できなければ、体全体の軸がブレてしまい、「立身中正」(→中心軸を意識し、無理なく自然な形で立つ)も実現しない。太極拳のあらゆる要諦は、相互に関連し合ってこそ成り立っている。
余計な力を入れず、ただ素直に柔らかく、地面と垂直に立つ。決して胴体の前方に顎を突き出さず、頭の軸を傾けず、力を抜き、頭部を正しく胴体の上に据える。
自分が操り人形になって、百会を起点に天井から吊るされているイメージを持つ。そうすると重力に従い、地球の中心に向かって体重をかけて沈むような感覚で立てる。
顎は意図的に引くというより、頭部の重みが踵周辺に乗っていれば正しく立て、自然と顎を軽く引いた状態になる。無理に脚に力を入れてバランスを取る必要もない。
つまり、まっすぐ立つには、脚だけの筋力で立つのではなく、頭のてっぺんから足先まで体全体のバランスを整え、自然に立つ。そうすれば重心移動して前後左右に動くとき、滅多なことではグラついたり倒れたりしない。
頸には大切な神経や血管がいっぱい通っている
百会のツボを天に向ける意識を持つことは、「頸を大切に扱うこと」に繋がる。
頸は、体の中でもとりわけデリケートな部分。普段、私たちは細い頸で重たい頭を支えている。頸の内部には、胴体と脳を結ぶ大切な神経や血管がいっぱい通っている。
頸が縮こまったり冷えてしまうと、脳への血流が悪くなる。肩と頸の力を適度に抜いて、柔らかい筋肉を保ち、いつも頸や背中を伸びやかに保てば、脳への血流も良くなる。
まるで亀が甲羅に頭を突っ込むように頸がズングリと固まっている状態では、脳への血流も阻害され、肩コリや首コリも酷くなる。だから甲羅から頸をニュッと出すように、頸椎まわりの筋肉を自然に伸びやかにしたい。
先月(2021年10月下旬)、NHKの今日の健康という番組で、姿勢について特集されていたのを観た。番組内で専門家の方が、「高齢者の良くない姿勢の事例」として「背中が丸まっている上、頭が前に出過ぎている状態」を指摘されていた。
この姿勢は、ボーリングの玉ほどの重さの頭部が、しっかりと胴体の上に乗っておらず、胴体より前に突き出ている状態で、前のめりで非常にバランスが悪い。
頭を頸が支えるとき、力を込めるのではなく、長時間いい姿勢でいられるように、軽い感覚で顎を引き、頭の位置を微調整したい。
太極拳を長くやっていると、常に「姿勢を整えて柔らかく立とう」とする習慣ができる。高齢になって固まってしまう前に、太極拳のほか、何らかの体操などで姿勢を整えることを日常的に意識するのが良いと思う。
胴体の真上に頭を据え、顎を軽く引き、百会を上空に向ける
年齢を重ねると骨粗鬆症や筋力不足などで、どうしても頸の角度が変わってしまう人が出てくる。
それを80代以上になって初めて治そうとしても、凝り固まってなかなか治せる状態ではない。遅くとも60代、せめて70代前半までに、自分の姿勢の良くない点に気づいて姿勢を整え、質の良い運動を続けることがベストだと思う。
高齢者だけではなく、若者だって要注意。残念ながら、生活する上でよく見かけるのは、胴体の上に頭が据わっていない多くの人達。
電車に乗ると、スマホ片手に頸が前方に45度ほども傾いている、酷い猫背の人がいっぱいいる。これでストレートネックになりがちな若者が多いという。
当然、長時間、同じ姿勢でテレビやスマホをジッと見ない方がいいし、音楽ライブなどで頭を振るのも良くない。頸を痛めるし、酷い場合は脳出血で神経障害が出るという。
普段から頸まわり、肩まわりを柔らかく保ち、無理のないやり方で軽くほぐす習慣をつけたい。
練功十八法や太極拳の良い動きで頸まわりを整える
太極拳の動きは、基本的に頸を縦に振ったりせず、床と水平にゆっくりと動かすので頸に優しい。急激な速い動作は必要なく、頸椎まわりを緩やかにほぐすことができる。
ところで私は、よく練功十八法という中国由来の運動を行う。練功十八法には、目線を上げていく動作が幾つか含まれている。
このとき絶対に、頸をガクッと後ろに急に反らせて上を向いてはいけない。もし頸をガクッといきなり反らせたら、頸椎を痛めかねない。おまけに、頭と頸がいきなり動けば、頭がクラクラし、眩暈のような症状を引き起こすこともある。
運動時に頸を動かすときは、あくまでもゆっくりと、柔らかく、力まずに、深い呼吸を伴いながら少しずつ動かす。上を向くときは、百会を真上に軽く引き上げ、あとはゆるやかに目線を少し上げる程度でいい。頸の傾斜度合いは、曲げ過ぎず最低限にとどめる。
練功十八法の前段、第1節に「頸項争力」という動きがある。この動きは、頸まわりから肩甲骨まわりに広がる僧帽筋をほぐす。僧帽筋が固まると、酷い肩コリや首コリに繋がり、脳への血流が阻害されるので、特に柔らかく保ちたい部分である。
また、同じく練功十八法前段、第2節「左右開弓」では、菱形筋をほぐすことで頸~背中まわりの血流を促す。
参照URL:練功十八法前段 https://www.youtube.com/watch?v=q87K1qvF798
・第1節「頸項争力」→0:50あたり
・第2節「左右開弓」→1:23あたり
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